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ヒトラー 〜最期の12日間〜のNMのレビュー・感想・評価

ヒトラー 〜最期の12日間〜(2004年製作の映画)
3.8
戦争ものだがとても観やすく作られている。
ヒトラーより、戦況が悪くなるなかで葛藤する部下や市民たちがメイン。
とんでもない危機一髪の日々というより、いつの間にかおかしくなって気付いても逃れられなくなるというじんわりした恐怖。
ナチ主体だがユダヤ人迫害等にはあまり触れておらず、軍内部の状況推移のほうが描かれている。
よくあるハードな描写が続くわけでも劇的な展開ラストもないところがかえってリアルで、なぜか飽きずに観られる不思議な作品だった。

実在のヒトラー秘書が語った話をもとにしたらしい。
若かった私。よく理解もせず興味本位でヒトラーの秘書に応募した。
会ってみると優しそうだったし、採用を勝ち取ると仲間たちは祝福してくれた。
職場は刺激に溢れていて、スリリングな毎日。政局を分かったようなふりをしたり、将校たちを裏で揶揄したりして、自分が大きくなったような気分だった。
勇敢な戦士の一人になったような気がして、状況が悪くなっても将軍を捨てて逃げるなど恥だと思っていた......。

まずいと感じつつも逃げ出せなかった様々な人々の心情を垣間見る。
降伏派の側近たちが助言しようとしてもヒトラーは聞く耳を持っていない。ヒトラーは戦争に勝ちたいとは思いつつ、国民や国土がどうなろうと構わないという矛盾した思考らしい。
組織としては大きかったからこそ、戦況が悪いからといってそこから一人離脱してやっていけるかどうかは未知数。みんなが残っているからという理由で残ってしまう。

市民のなかには自ら最後まで残って戦う者たちも。子どもや素人たちで実際の戦力にはならず、無惨に散っていく。

判断が鈍っていた者と、判断できても動けない者とがいた。
今までの知識が間違っていて今見ている現実が真実だという決断を下すことは簡単とは限らない。今まで通り総統が正しいと考えるのが一番楽だし、そう思いたい。それに考えを変えたことを明らかにすると、まだ変えていない周りの人々に腰抜けとか裏切りとみなされる。一人になっていく総統を見て、自分だけはついていてやるべきと考える人がいてもおかしくない。逆にますますヒトラーにすがる者も。

やがてこれまであらゆるところから鬱憤をため込んでいたため、満を持して逃げ出す人は増えて行った。もうあんな総統に気に入られても意味がない。ぎりぎりのところで自らの生存本能を見出す人たち。

ヒトラー役俳優の演技は見どころの一つ。すぐに癇癪をおこしどなり続ける演技は相当体力が要りそうだ。
側近たちが頻繁に冷や汗をだらだら垂らしている演出も印象的。彼らは表情をあまり変えないし言葉も制限されているのでこういう演出になったのだろうか。全体的にくどくなくさっぱりとしていて自然な演技。

ヒトラーが遺言を秘書に速記をさせるシーンで、背後の壁に聖母子像がかけられていたのが印象的。
死に際に結婚していたのも、自然な流れだったとしてもどうしても滑稽にうつった。こんな時でさえアーリア人かどうかを確認されている。
ヒトラーが自殺し部下たちに燃やしてもらえたことは個人的に正直気に入らない。彼は死に方を選ぶことができ、部下や市民たちは無残に散っていった。

ヒトラーが自害したあとでもまだ残った者たちはますます意地になる。勝ち目はないという絶対的事実がどうしても受け入れられない。
いざ逃げる判断をしても、自責の念がついてまわった。
霧の中、言葉もなく行軍していく様子がなんとも不気味。

手をつなぎにきた少年は印象的。子どもは真っ先に犠牲にもなるし、また事態を打開してもくれる将来の希望。

戦争ものなのに、食器や女性の服装などがどうもおしゃれだったのもユニーク。考えてみれば敗けが込んできたからといって急に粗末なものに買い変えたりするわけはない。
終始おさえた描写で画面の美しさを強調したりしないので綺麗なものがかえって目に付いた。
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