純

パリの恋人の純のレビュー・感想・評価

パリの恋人(1957年製作の映画)
4.1
幸福を身に纏うことが、きっといちばんひとを魅力的にする。幸せなひとにだけ感じるすこやかな心、うつくしい姿勢、やさしい瞳というのは本当にあって、うっとりするほどそれは揺るがない。それらはどれも誠実さと謙虚な肯定感からできていて、だからわたしたちはいつまでもどこまでも、正しさに憧れることができるんじゃないかなと思う。

オードリーに恋をするための映画だった。レトロな雰囲気や上品な佇まいに、飽きることなく見惚れてしまう。彼女は町の小さな書店で働くときからすでに品があって素敵だったけど、どこか影があって閉じこもっていた気がするな。憧れのひとや場所を夢見ながらも、心のどこかでは少し諦めていたり、自分を押さえつけていたりしたところがあったのかもしれない。誰も幸福に対して尻込みすることなんかないけれど、わたしたちはなんとなく臆病で弱虫な生き方をしてしまうし、他の誰かの方が向いていると思ってしまう。でも、本当はそんなことないんだよな。わたしたちは皆、すぐにでも幸せになれる。

パリでたくさんのことを、本からではなく自分の身で学んだことで、感情が全身から溢れ出る彼女の魅力が本当に眩しい。多幸感をこんなにも体いっぱいに浴びて、感じて、彼女は今こんなにも本物だ。嬉しいも楽しいも驚きも、なんてまっすぐで若々しいんだろう。こんなにみずみずしい素直さを目の前にしたら、きっと誰もがため息をつく。美しさはいつだって幸福から生まれることが、わたしたちをどんなときも救ってくれるから泣いちゃうね。

少しの寂しいと失望が、幸福への回り道になるときだってある。近道なんて一度も通っていないのかもしれない。やるせない気持ちや恥じらいや哀しみ、それらを全部背負ってたどり着いた場所というのはちゃんとあって、きっと自分にとっての大事な秘密基地になってくれる。涙がこぼれるくらいの幸福だってあってもいい。カラフルで楽しい色彩と同じくらい、透き通りそうなほどに真っ白なドレスも美しい。わたしたちに似合う色は毎日変わるし、毎日がいちばん美しいよ。だから、皆明日も明後日も、これからもずっと大丈夫です。
純