シンタロー

二人で歩いた幾春秋のシンタローのレビュー・感想・評価

二人で歩いた幾春秋(1962年製作の映画)
3.8
名匠・木下恵介が、河野道工の詩集「道路工夫の歌」に感銘を受け、自ら脚本化。主演は木下の代表作の1つ「喜びも悲しみも幾歳月」の高峰秀子、佐田啓二。
昭和21年、復員した野中義男は、故郷・山梨で道路工夫として働くが、生活は貧しかった。妻・とら江、息子・利幸、両親と5人、小さな借家に住んだ。2年後、とら江は役所の小使係に雇われ、一家は小使室に住めることになった。雨の日も風の日も、義男は道路整備。厳しい冬は除雪作業。とら江は土木工員の世話、家事、育児を懸命に勤める日々。昭和29年、利幸は優秀な成績で卒業し、甲府高校に入学。幾歳月の苦労も忘れて、夫婦は喜び合う…。
戦後のどさくさ、苦難の時代を耐えてきた祖母がよく泣いて観ていた作品です。この時代を地道に支えてくれた人々、土木工夫という目立たない人々の苦労があって、今の我々の生活があるのだということを、本当に忘れてはいけないと思います。高1で母を亡くし、30歳で妻を亡くした自分には、このような作品はちょっと…涙が止まらなくなって困ります。
高校入学式をこんな格好じゃ中に入れないとフェンス越しに見守る二人…身なりなんて構わないよ!と呼びに来る利幸。フェンスを飛び越える二人。帰りに寄る百貨店の食堂の場面も含めて大好きです。
「とら江!俺はお前が嫌がると思って、とら江って名を呼んだことはなかったんだぞ!」「呼べばいいじゃありませんか!この歳になりゃ虎だって熊だっていいですよ!」のやりとりに爆笑からの、義男が義理人情を熱く語る場面。芝居も含め素晴らしいです。
大学をやめて実家に戻ってこようとする利幸。殴るのだけはよしてくださいね、と頼むとら江。殴るどころか、息子のためならどんな苦労も厭わないと、愛情深く語りかける義男。その想いに応えようとしない利幸。殴るなっと言っておきながら平手打ち連発をかますとら江。慌てて止める義男が、俺は今日つくづく息子が可愛くなったんだ…と語る名場面。笑えて泣ける最高の演出です。
「仲良くしようよ」手を握る義男。「バカバカしい!そんなゴツい手と」払いのけるとら江。互いに歳を重ね合った手を見つめる二人…
老い古りし この妻と添ひ 二十五年 子をただ一人 育てたるのみ
主演の高峰と佐田は、木下作品だけでも5回目?くらいの共演でしょうか。4作は観たと思いますが、これはまさに集大成。息ぴったりです。高峰が上手なのは毎度ですが、37歳から53歳まで、無理なく老いて見せる芝居が素晴らしい。この方の台詞回しとか、間のとり方なんかは天才的な感じがします。好きなタイプの女優ではないけど、どんな役でも作品でも、気持ち良く観ていられます。佐田は繊細でナイーブな甘い二枚目時代を経て、円熟期の60年代から、芝居がおもしろくなってきました。渋い温かみを見事に表現した代表的な作品のひとつ。本当に悔やまれます。
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