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ドラえもん のび太のドラビアンナイトのRのネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

自宅で。

1991年の日本の作品。

監督は「さくらももこワールド ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌」の芝山努。

あらすじ

ひみつ道具「絵本入りこみぐつ」で絵本の世界に入り込んでいたのび太たち。だが、靴を片方無くしたしずかがアラビアンナイトの世界に取り残されてしまう。行方不明となったしずかを救うため、のび太たちは794年のバグダッドに向かうのだが…。

今年も「劇場版ドラえもん」略して「劇ドラ」観ていきます!今年最初となるのは劇ドラファンの中でも根強い人気を誇る今作。

お話はあらすじの通り、まず改めて今見返すと今作のキーとなるひみつ道具「絵本入りこみぐつ」が非常に先見的に感じる。絵本の世界に入り込めるという、まさにVR的な機能と、後半ジャイアンとスネ夫が悪ふざけで絵本をごちゃ混ぜにして絵本の世界観が融合して崩壊してしまうくだりなんかはMCUなどをはじめとしたトレンドのマルチバース要素そのまんまで面白い。

あと、関係ない部分で面白かったところが、序盤のび太がしずかを誘う道中で空き地で「なんかおもしれーことないかなぁ。」と言っているジャイアンに「僕がジャイアンを殴るってのはどう?面白いでしょ!」って平然と提案できるスネ夫がめちゃくちゃサイコで笑ってしまった。

で、お話はというとそんな不思議靴がきっかけでアラビアンナイトの世界に閉じ込められてしまったしずかを救うため、イラク、バグダッドと向かう訳なんだけど、まず絵本の世界線を実在の人物がいるというだけで現実の世界線から繋げることができるのではないか?という発想自体がすげぇ希望的観測だろ!だって、ごちゃ混ぜになっちゃってる分、他の絵本の世界で迷ったままだったら、ママに燃やされちゃってる自体でアウトだし、そうじゃなくてもいくらアラビアンナイトが280〜480話あって、その中で現実が元になったお話があったとしても、その時代にいるとは限らないわけで、いやぁ改めて、いくらご都合主義とはいえ、下手したら過去一過酷なレスキューとなっていることがわかる。

ちなみに、本作で実在の人物として挙げられていて、本編でも登場するハールーン・アッ=ラシード王はちゃんと実在していたらしく、治世を支えただけでなく、イスラム文化の黄金時代を築いた、まさに偉人。なるほど子どもの時観た時は全然気にしなかったけど、今観直すと本作ではあくまで「とっかかり」というかカメオ出演なのもこういう実在の偉人だからお話的にあんまり動かせなかったのかな笑

で、そんなラシード王との出会いを通じて、アラビアンナイトの世界の入り口に立つまでは成功したのび太たちなんだけど、そっからの道のりはかなりハード。地道な聞き込みの末(それにしたって探しているのは奴隷となった少女といういくらしずかちゃんが美少女でイスラムでは珍しいアジア人だからといっても雲を掴むような作業場)、ようやく手がかりを続けた後、船を買い取って大海原の航海に出るんだけど、そこで実は変装していた悪党カシムに騙されて、寝ているところを荒れ狂う大波の真っ只中にほっぽり出されて、命からがら流れ着いた先でも待っていたのは広大で過酷な大砂漠…。

いや、下手したら今のシリーズ合わせても1番ハードじゃないのか?しかも、大砂漠ではろくな食糧も水も無いのに、加えてカシムにドラがポケット取られちゃったもんだから、使えるのは笛でニョロニョロ伸びるターバンのみ笑。いや、無理無理無理!!

まぁ、ハードといえばしずかちゃんの今作で直面する身の上も悲惨極まりないよなぁ。だって、おとぎ話の世界にいたと思ったら、急にイスラムに落とされて捕まっちゃって奴隷として売り飛ばされるって…。これ、あくまで「ドラえもん」だからそれでも抑えてる方だけど、違う作品だったら、もっと危ない目に遭って人格崩壊、廃人になっててもおかしくない(あえて書きはしないけど)。

で、個人的にはむしろ、この中判の大砂漠のシーンにこそ、今作の魅力が詰まっていると思っていて、上述のハードな展開の中で、ポケットを失ったドラと他3人の対立があったり、蜃気楼や(この時は)幻覚の空飛ぶ木馬を見たことですっかり信用を無くした(つーか、元々あったのか笑笑)スネ夫、熱中症で倒れるのび太、そしてすっかりファンの中ではネットミーム化した「ジャイアンは劇場版だといい奴になる」すなわち大長編補正は今作で形づいたと言っても過言ではない男前ジャイアンとそれに言及するスネ夫(というわけで割と他の作品だとチキンのスネ夫が意外としっかりコメディリリーフな面白さ)とまぁ、挙げただけでも魅力と面白さが詰まっている!!

だからこそ、必死の想いで遂に同じく過酷な目に遭っていたしずかちゃんと感動の再会を果たした時はマジでこっちまで「良かったね〜😭」とグッときてしまうんだ。

まぁ、ここに本作の面白さが詰まっていると感じる要因はそれ以降メインの舞台である「黄金宮」にたどり着くんだけど、やっぱその主人であり、キーパーソンのシンドバットが人間的にどうなんだ?って今見ても思わされる人物像だから。

早くしずかちゃんを見つけたいのに、魔法グッズの自慢をベラベラ言ったかと思えば、すっかり油断してバカンスを子どもたちと楽しんでたところを寝首をかかれてアブジルに黄金宮を乗っ取られる体たらく。しかも、魔法グッズに頼り切った生活をしていて、すっかりロートルと化してるもんだから、すぐにハートブレイクしちゃって、さっきまで過酷な目に遭っていた子どもたちに叱咤激励される始末…。

そりゃ、本来は老いても、船乗りシンドバットだから「ヒーロー」の復活譚にはなっていて、そこを作り手も見せたいんだろうけど、なんつーか言いたくないけど正直、老害に感じてしまったりもした…。

やっぱ、ここはシンドバットをおじいちゃん設定にするんじゃなくラシード王みたいな精悍な大人キャラにするか、カッコいいおじいちゃんキャラとして描いて欲しかったなぁという印象。エンドロールの自分のかつての栄光が描かれたおとぎ話の絵本を読み返してるところなんて、自分でも言及してたけど、ランプの精とかいるにしても、やっぱどこか独居老人じみた、寂しい感じを受けた。

という感じでやっぱ全体を覆うハードさとクライマックスのアドベンチャーのバランス、そしてシンドバットのキャラクターと今観るとかなり歪な作品と言っていい内容となっていて、多分今作をリメイクするのはご時世的にもかなり難しいんじゃないかなぁ。そういう意味でも今作だけでしか味わえない唯一無二の作品でもあると思います。
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