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スラムドッグ$ミリオネアのヨウのレビュー・感想・評価

スラムドッグ$ミリオネア(2008年製作の映画)
4.2
インド、スラム街。カーストの最下層として救いのない状況で産まれ、学を得る機会もなく、物乞いや強奪など凄惨な日常の経験でも、後々に彼をクイズ番組の答えに導いてくれるのなら、まさしくそれは運命だったのに違いない。

ただ、その運命の花が咲くまでの経緯は決して容易でなく、経済発展を遂げる怒涛のムンバイの中で生きる為には、幼いながらも兄弟が力を合わせ、逆境に抗い続ける必要があった。その苦難の中で得た経験だからこそ彼の中に焼き付いたのだ。

幼い頃に出逢い、そして離れてからも大切に想い続けた少女ラティカを追い求めた事で、導かれた幾つかの出来事… それはクイズの答えを示唆していた。

クイズ番組と絡める事で、ジャマールが一問一問正解する度に、彼の凄惨な人生が報われていく気がして、彼の生い立ちに同情して観ているこちらの心も昇華されてくる。ただジャマールにとっては、クイズで得られる莫大な賞金よりもラティカの安否の方が気掛かりであったに違いない。

何よりも大切な存在であるラティカの無事が分からない。あの日、駆け落ちをしようと待ち合わせた駅でギャングに連れ去られてしまったまま行方不明のラティカ… 彼がクイズ番組に出たのも何処かで彼女が観ていてくれればという願いからだ。この番組を、彼女は不幸な毎日の中で「夢を与えてくれる」と憧れながら観ていたのを知っていたからである。

「過去」の経験が彼を正解に導き、最後のライフラインであるテレフォンはまさしく「現在」の希望に繋がり、そして運命が花を開き「未来」へと広がっていく。

あの日、約束した駅に現れた鮮やかな黄色のストールに包まれたラティカの太陽の様な笑顔が忘れられない。
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