ユースケ

仮面/ペルソナのユースケのネタバレレビュー・内容・結末

仮面/ペルソナ(1967年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ペルソナとは…元来、古典劇において役者が用いた仮面の事であるが、人間は地位、役割、場面に合わせ、態度や行動を変える事から、ひとりの人間の中に様々な人格があるとしたスイスの心理学者カール・グスタフ・ユングが提唱した概念の事。
これを踏まえて鑑賞すれば、本作はそこまで難解な映画ではないはずです。

【ファイト・クラブ】【マルホランド・ドライブ】【複製された男】など、現在のドッペルゲンガー映画に多大な影響を与えた元祖ドッペルゲンガー映画である本作は、全ての仮面が外れ、言葉を失った舞台女優のエリザベート(リヴ・ウルマン)と真面目な看護婦の仮面が外れ、本来の自分をさらけ出す看護婦のアルマ(ビビ・アンデショーン)の二人が、患者と看護婦の関係を越え、人格を共有し、侵食し合う姿を描いた一本。

みどころは、ビビ・アンデショーンとリヴ・ウルマンが同一人物に思えてくる壮絶な演技合戦とトリッキーな演出。クロスカッティングをせずにシーンを繋げたアルマがエリザベートに尋問するシーンから二人の人格が統合され、新たな人格が形成されるシーンの流れは秀逸です。

ちなみに、演技ができなくなってしまった舞台女優のエリザベートは、危機的状況に直面した世界で映画の無力さを痛感し、映画が撮れなくなってしまった映画監督のイングマール・ベルイマンの投影。エリザベートの復活を描いたラストシーンは「自分の人生を犠牲にしてでも映画の力で人々に救いを与えてみせる」というメッセージが込められたイングマール・ベルイマンの復活宣言なのです。

蜘蛛のイメージについて…
イングマール・ベルイマンにとって蜘蛛は神をイメージさせるものなのだそうです。
【鏡の中にある如く】【冬の光】【野いちご】にも登場。

少年が読む本について…
帝政ロシアの詩人ミハイル・レールモントフが書き上げた【現代の英雄】。主人公ペチョーリンの台詞「俺の中には二つの人格がある。ひとつは現実世界で生きる人格。ひとつはそれを客観視して批評している人格。だから俺は何事にも本気になれないんだよ。」が本作のアイデアの元になったそうです。
同じ子役がこの本を読むシーンが【沈黙】にも登場。

※作品のバックグラウンドについては映画評論家・町山智浩先生の解説を参考にさせて頂きました。