こたつむり

レベッカのこたつむりのレビュー・感想・評価

レベッカ(1940年製作の映画)
3.8
ヒッチコック監督のハリウッドデビュー作。

かの名作『サイコ』劇場公開から20年前。
ほう。冴え渡る変化球は、この頃から健在だったのですね。打者に向かってくる球がぐわんと外角低めに落ちていく様は。これぞ芸術。もうね。腰砕けであります。

この変化球を最大限に楽しむためには…。
やっぱり粗筋すら読まない方が吉ですね。『お金持ちの御屋敷に分相応にも庶民が暮らすとどうなるのか』という事前情報だけを念頭に鑑賞に臨むと良いかと思います。

ちなみに、本作の舞台である“マンダレー”。
劇中では高貴な場所であり、一般庶民は立ち入ることが出来ないような“言われ方”をしていましたけど。鑑賞後に調べたら、架空の場所なんだとか。でも、モデルとかあるんでしょうね。だから、高貴な場所での振る舞いやら、暮らしぶりが「むむん。こりゃあ。分相応って言葉も解るなあ」なんて思うほどの別世界の話でも説得力があるのでしょう。…って僕は、そんな生活に触れたことは一片たりともありませんけど。

そして。
この別世界での暮らしぶりですが。
長いテーブルでの食事。
誰もいないのに煌々と部屋を暖める暖炉。
全ての些事は使用人が行い、髪を梳かすのすら自分では行わない…等々を表現すればするほど。監督の変化球が冴え渡るんですね。うん。この作品は。庶民であればあるほど楽しめる作品だと思います。だから、僕は対象ど真ん中でした。

ただ、あえて難を言うならば。
物語のキレを感じるための準備として、中盤を過ぎるまでの冗長な展開に耐え忍ばないといけないんですよね。鑑賞後に振り返れば「無駄な描写が少なかったなあ」と解るんですが、それを鑑賞中に判別するのは難しい話。艶やかな色彩に満ち、手に汗握る活劇に観慣れた現代人の視点から考えると、もう少し上映時間が短い方が良かったな…なんて思いました。

まあ、それでも。
監督唯一のアカデミー作品賞受賞作品であり、
妄執に囚われたサスペンスとして名を遺した作品。
白黒の濃淡の向こう側に見える現実と夢の境界線。
ぞわっとした悪寒が誘う幻惑的な恐怖。
モノクロ映画に抵抗が少なく、秀逸なサスペンスをお探しの方は、是非とも。
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