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ダーク・ブルーのtakのレビュー・感想・評価

ダーク・ブルー(2001年製作の映画)
4.5
スタジオジブリが外国映画配給を初めて手がけた作品。宮崎駿作品の空への憧れにも通ずる場面もあり、今から観ると「風立ちぬ」と重なる印象を受けるかもしれない。

映画を観ていて初めて知る現実。その驚きは心底「映画観続けていてよかった!」という気持ちにしばしばさせる。この映画から得られる知識と感動もそのひとつだ。第二次大戦でチェコにドイツ軍が侵攻、チェコスロバキア政府はあっさりと服従。チェコ空軍の数名はイギリス空軍に参加して自由のために戦った。しかし、帰国後に共産主義政権が誕生し、英国に組みしたことから彼らは強制収容所送りとなり、91年まで復権しなかったという事実。国のために戦ったにもかかわらず反逆者とされた者たちの絶望、チェコという国の置かれた政治的な状況を考えると胸が震えた。まだこんな馬鹿げたことが世の中では起こっていたのだ。

ヤン・スビエラーク監督の前作「コーリャ 愛のプラハ」は実にハートウォームな映画だった。この「ダーク・ブルー」は上に書いたような厳しい現実の話ではある。しかしそれを全面に出した政治的な映画とは違う。全体としてはすごく人間的なやさしさを感じられる映画だ。そこがこの映画の素晴らしさ。

話の中心は英国空軍に参加した年のやや離れたの男二人の友情物語。信頼できるいい関係であったのが、同じ英国人女性を愛したことから関係が壊れていく。祖国に帰れば、恋人は失う、愛犬はよそのうちの犬になっている。主人公フランタが信じていたものは次々と失われていく。そして祖国の政府までも・・・。

戦争がすべてを引き裂いたといえばそうなのだが、ここで感じるのは様々なものの”もろさ”。英国空軍の誇るスピットファイヤでさえ、故障の多いボロ中古車のような戦闘機として描かれている。物語としては救いのないストーリーではある。

ラストの収容所の場面。居眠りする看守の目を盗んで皆が一息つく。そこへ窓から一筋の光が差し込む。政治的に大国の思惑に左右されても、そこで暮らす人々はけなげに懸命に生きている・・・。登場人物が脇役のひとりひとりまで愛すべき人物なのが、またこの映画の魅力。空軍仲間のピアノ弾きや、強制収容所の元ナチ親衛隊医師、チャールズ・ダンス演ずる英国空軍の司令官、英語教師の女性、祖国の駅員までにそれぞれの人生を感じさせる。
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