イルーナ

ゲド戦記のイルーナのレビュー・感想・評価

ゲド戦記(2006年製作の映画)
1.5
かの宮崎駿の息子、宮崎吾朗の監督デビュー作!しかも原作は世界的ファンタジー小説!と話題性は抜群だったこの作品。が、評価は酷評の嵐……
今回のテレビ放送でも、私のTL上ではほとんど話題になっておらず、検索しても内容には触れずにアレンばっかり言ってるツイがやたら多い。おまけに先週のハウルと違ってEDもカットされている……と、世間からの扱いも明らかに冷たい。
そもそも原作は古典中の古典なうえ、全6巻もの大作であることを考えると、デビュー作でこれを題材にするのは無謀だったのではないかと言われても仕方ない。

話そのものは一応第3巻メインに絞ってはいますが、それ故に説明不足も甚だしい。キャラクターの背景や「真の名」など、作品の根幹にかかわる部分について、ほとんど説明がなされない。多くの人が「?」となるのも宜なるかな。
一方で、「どういう状況なのか絵でまともに描写せず、セリフだけで説明する」という問題点も。「世界の均衡が崩れている」と説明されますが、それらしい描写がほとんどないから、緊張感もないのです。
(「あちこちで作物が枯れ、羊や牛がダメになり、人間の頭が変になっている」のセリフ、もう少し推敲できなかったのか……)

とはいえ、先週放送された『ハウルの動く城』も、戦争関連を中心に説明不足が目立つ作品でした。しかしあちらは、説明不足な部分を補って余りあるほど魅力的なキャラクター、世界観にあふれていたし、どういう状況なのか、ちゃんと絵で説明できていました。

本作は、そういったものがあまりにも欠如していました。とにかく盛り上がりらしい盛り上がりがなくて、非常に退屈。父親殺し、街の負の面を見せつけた前半はまだしも、後半は農家での暮らしメインだから、絵的にもひたすら地味ですし。

キャラクターも、主役サイドは全体的に陰気なキャラばかりだからメリハリがない。悪役や脇役も嫌な面しか描写されてなくて、メリハリがないのはもちろん、ただ不快なだけ。さらにアレンやクモは、ぼそぼそしたしゃべり方なせいで、テレビで見る時は音量を上げないと聞き取りづらいという、物理的な問題点も無視できない。
また、キャラクターに関しては、ジブリの過去作を知ってると既視感しかないのばかりです。例えば、

・ウサギ→クロトワ(風の谷のナウシカ)

・テナー→おソノさん(魔女の宅急便)

・ハジア売り→ジコ坊(もののけ姫)

という具合に。他にも様々な描写を見てると、「明らかにこの作品のこのシーンを意識してるよなぁ」という部分がよく出てくる。けれどそれが作品の面白さにつながっているかと言われると……

ここまで批判的なことを書き続けてきましたが、一応、見るべきところも存在します。『テルーの唄』は言わずもがな、本作のメッセージ性。
疫病が蔓延した地域を感染拡大防止のために封鎖しようとする王の提言や、ハイタカの「疫病は世界が均衡をとろうとするひとつの運動」という言葉は、まんま今のコロナ禍の情勢にピタリと当てはまっています。
たった一つの命を生きるとは何かというメッセージも感動的……なはずなのですが、これらのメッセージ性も、すべてセリフでしか描写されてないからやはり薄っぺらい。うーん……
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