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ゲド戦記のprocerのレビュー・感想・評価

ゲド戦記(2006年製作の映画)
2.8
 映画化するなら宮崎駿監督で・・・と原作者からご指名があったという本作品ですが、巷の評判はよくありません。さて、どうしてなのでしょうか。私の率直な感想としては、決して悪い内容ではないと思います。3時間近い長丁場を飽きさせずに魅せる技はジブリならではの映像です。ただ走るカットですら立体的に走り抜けるこだわりは、監督が変わっても一緒なのには感心しました。テーマも一貫しており、内容もわかりやすい。でも・・・でも足らないものははなんなのか?評価の悪い原因は・・・・?私個人の感想としては、原作をこれ以上ないというほど大事にしなかったことではないかと思っています。

 同じファンタジーの王道、「ロード・オブ・ザ・リング」はピーター・ジャクソン監督が愛情込めて作った作品であることが原作ファンにも理解できる内容となり、ファンにも納得できる作品として認められました。ファンタジー作品というジャンルには原作の世界観やイメージは読者の脳内で構成される映像に、根強いファンがいるのは当たり前の話であると思います。「ゲド戦記」もそんな根強いファンの多いファンタジー作品であり、今回の監督である宮崎吾郎氏の父、かの有名な宮崎駿監督もファンであるというほどの原作です。美術館館長である吾郎氏に、この大作を映画化するのはたいへんな重荷であると予想されますが・・・私は原作未読のため、純粋に作品として楽しめるかという単純明快な目で本作品を観る形となりました。結果・・・おや?知らない作品なのに、どこかで観た絵と展開だぞ?これはどうしたことだ・・・?その答えはエンドクレジットにありました。

 確執が伝えられて一切口出ししていないはずの、父宮崎駿氏の名前がそこにありました。原案「シュナの旅」宮崎駿、と。

原作にそれだけこだわりがあるはずの「ゲド戦記」の中に、父が以前描いた作品「シュナの旅」を織り込んだ、というのがこの違和感の答えでした。うーん、それはちょっと・・・巷で騒がれている原作者に謝れ!という声はこういうことにもあったのではないかと推測されます。しかしながらこの「シュナの旅」については、私も読んで大変感動し、映画化されないだろうか・・・と思う作品だったのです。何故に吾郎監督はこの作品に絞らなかったんだろうかと思うとともに、こうして中途半端に作品にかかわってしまうことにより、「シュナの旅」の映画化はないのだろうな~と残念な気持ちになってしまいます。

 意外に長いレビューとなってしまいましたが、いち作品としての「ゲド戦記」は決してつまらない作品ではありません。映像のクオリティもさすがといえますし、テーマソングは印象に残ることは間違いありません。しかし・・・しかしやはり父である駿監督が絶対にやらないことをやったことでそれが違和感となったのは正直なところです。それは脚本でも映像でもいえることでした。

 ジブリ作品のクオリティは、いまや追従をするのは難しい領域にまで昇華しています。やはりそのハードルでは世間の風当りが強いことは否めないのでしょうが、音響や映像も流石の領域なジブリです。もう恒例であるお祭りを楽しむ感覚で、是非劇場に足を運んでみてはいかがでしょうか。

 原作者は本作品に対して最後にドラゴンの描写等についてほめている以外は原作に対する失望と批判に集中しています。やはり原作にない父殺しや、影に対する説明の弱さ、敵をクモだけにしてこれを殺して終わりという内容を指摘していますが、この文章だけで作品に対する語りきれない大きな失望が読み取ることが出来ます。これに対して吾朗氏やジブリはどのようなコメントを出したのでしょうか。
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