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アリスの恋のIMAOのネタバレレビュー・内容・結末

アリスの恋(1974年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

マーティン・スコセッシというと『タクシードライバー』や近作『アイリッシュマン』など「男」を描いた映画が代表作だと思われている。でもこの『アリスの恋』はスコセッシが唯一女性を主人公に描いた作品で、隠れた名作だと思う。『タクシードライバー』で彼がカンヌでパルム・ドールを獲る前の作品でもある。

主婦のアリスは配送員の夫と、11歳の息子と暮らす主婦。しかし、ある日夫が事故で死んでしまい、彼女は息子と二人で生まれ故郷であるモントレーへと向かうことになる。しかし生活費を稼ぎながら途中の街へ立ち寄り、そこで出会った牧場主デイビッドと知り合うが…

この映画はエレン・バーンスティン主導に始まった企画。彼女が『エクソシスト』でメジャーになった後、離婚して「女性が自立するには」というテーマで映画ができないものか?と考えていた時に出会った脚本だそうだ。誰か若い監督に撮らせたいとフランシス・フォード・コッポラに相談しに行くと、コッポラが推薦したのが若きスコセッシ。バースティンが「あなたの映画(『ミーン・ストリート』)とても良かったけど、男しか出てこなかったわね。これは女性の視点の映画にしたいんだけど、アナタには女性の視点がわかる?」と聞くとスコセッシは「わかりませんが、勉強します」。その謙虚さが気に入ったとエレン・バーンスティンはインタビューで答えている。

「女性の自立」とは言っても時代も女性観も現代とはかなり異なっていて、結局彼女は「自立」出来たのか?というと怪しい部分もある。だがここに描かれている男と女の深い溝のようなものは今も変わっていないし、そのリアリティーは今観てもハッとさせられる部分がある。スコセッシの演出力もさることながら、主演のエレン・バーンスティンもデイビッド役のクリス・クリストファーソンも離婚経験があり、自らの経験が反映されているのだろう。
この映画のラスト、アリスとデイビッドは結ばれるし一見ハッピーエンドの様にも描かれているが、スコセッシ自身はそこに含みを持たせている。彼はインタビューでこう答えている。
「バーンスティン(アリス)とクリストファーソン(デイビッド)は終生結ばれるかもしれないが、そうなれば二人の仲はとても平穏にはすまされないだろう。男が最初の妻について語る言葉がここでは大事なんだ。『出て行くと彼女が言ったので、俺はドアを開けてやった』。私はここのところを男女関係についての現実的なセリフとなるように演出した。つまり男には明らかに心の中にしまっていることがあり、もしそれを吐き出せばただでは済まなくなるのだ」(『スコセッシ オン スコセッシ』フィルムアート社より)

エレン・バーンスティン、クリス・クリストファーソンの二人はもちろん良いが、若きハーヴェイ・カイテル、まだ子役のジュディー・フォスター。ウィトレス役のダイアン・ラッドなど名優たちの演技も見ていて楽しい。ちなみにダイアン・ラッドの娘のローラ・ダーンもエキストラ出演している。
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