どういう経緯で撮ることになったのかはわからないが奇怪な表現主義映画の人と俺は思っていたパウル・レニの英語作品で内容もユニバーサルの怪奇映画とかみたいなのでずいぶんアメリカナイズされたなあとか思って寝ながら観ていたら後半舞台となる劇場に隠し通路が見つかったり暗闇から猫の眼が飛び出してきたり謎の溶けた顔男が歌舞伎でいうすっぽん的に急に現れては消えたりして単純と思われた殺人(?)事件はどんどん混迷を深めラストシークエンスでは公演のさなかに書割がどーんと解体される大仕掛け、そしてそこからの溶けた顔男の追跡劇は一大スペクタクルで、溶けた顔男のターザン的ロープ移動を主観で表現するためにカメラをロープに吊るして振り子移動をさせたりとパウル・レニの面目躍如の前衛精神爆発、多重露光でブロードウェイのきらびやかな夜を表現するオープニングとエンディングも楽しい、見終わってみれば実にパウル・レニな映画でした!
とくに終盤の展開なんか江戸川乱歩の初期の作品とか怪人二十面相ものを彷彿とさせるのだが公開年を考えれば乱歩の方がこういう映画に影響されたんだろう。溶けた顔の造型などはロン・チェイニーの『オペラの怪人』とも似ているが『オペラの怪人』はこれよりずっと後の作品なのでむしろこちらが『オペラの怪人』に影響を与えたのかもしれない。ストーリー面ではガストン・ルルーの原作から引用しているようにも思える箇所もあるので、アンオフィシャルな『オペラ座の怪人』の映像化作品とも言えるんじゃなかろか。
と、くどくど書いているがこういう映画に講釈など不要、トリック満載ハッタリ満載の実にたのしい怪奇映画風犯罪劇でありました!