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顔のakrutmのレビュー・感想・評価

(2000年製作の映画)
3.8
引きこもりだった女性が殺人を犯して逃亡生活を送るうちに内向的な自分を開放していく姿を描いた、阪本順治監督のドラマ映画。

松山ホステス殺人事件の犯人で時効寸前で逮捕された福田和子が主人公のモデルであるとか、この事件が本作のベースになっていると紹介しているあらすじが少なくないが、これらの説明は適切ではない(それを期待して鑑賞したのに…)。殺人を犯して逃亡生活を送る女性というくらいしか共通点はないので、福田和子事件がきっかけになって本作が構想されたという程度の関係である。映画の中でも、主人公の事件とは別に、福田和子を想起させる事件への言及があるし。

福田和子事件とは関係なくても、鑑賞者を十分に満足させてくれる良質の映画である。逃避行というシリアスさ一辺倒ではなく、人物像のユーモラスさとの絶妙なバランスを狙った脚本はまずまず成功しているし、その主人公を演じた藤山直美が素晴らしい。父親の才能を受け継いだ一流喜劇役者なので、このくらいの演技は朝飯前かもしれないが、まさに彼女のはまり役と言える。豊川悦司、佐藤浩市、岸部一徳、國村隼、中村勘九郎など、彼女以外の脇役の俳優たちもいい味を出している。そして最も印象的だったのが、バーのママ役の大楠道代。見ず知らずの女性を家族のように受け入れて自分のバーで雇ってしまうほどの優しさの陰に人知れぬ孤独を抱えた中年女性(でも豊川悦司の姉という設定はちょっと無理がある気が…)を見事に演じていて、本作で数々の助演女優賞を受賞したのも首肯できる。

それでも傑作とまでは言えないのは、殺人に至った経緯がぼやっとしているところに物足りなさを感じたから。小さい頃から内向的な性格なのは分かるが、妹がそこまで毛嫌いする理由が実感できなかった。前半で、牧瀬里穂が毒づくシーンとか主人公のどんくさいシーンをもっと増やしたほうがよかったかも。藤山直美も主人公のどんくささを上手く演じているように見えるが、(後半のために仕方ない面もあるが)彼女の目が死んでいないために、引きこもっている女性という設定に説得力を欠いたのは残念である。

目標:自転車に乗れるようになる。泳げるようになる。
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