伊達巻

四季を売る男の伊達巻のレビュー・感想・評価

四季を売る男(1971年製作の映画)
4.1
ダグラス・サークの映画に影響を受けてからメロドラマの作風を取り入れていくことになるファスビンダー第一作。といってもそれ以前の彼の長編を未だ一本も観れてないのでそこらへんの変遷などはよくわからない。主人公は四季、つまり果物を街道で売ることを生業としている訳だが、この魅力的なタイトルに受ける印象とは打って変わって、むしろ流れゆく時の流れの無情さばかりが目につくような作品だと感じた。後期作品と比べても決して上手いと言えるつくりではなく、眠たくなるような退屈さがちょっとしんどくもあったが冗長ということではなく、短い時間の中で必要な要素を丹念に描いているから見逃していいと言えるシーンはない。主人公の妹を演じるハンナ・シグラの強かさが素晴らしく、地獄みたいな食卓のシーンでも彼女のおかげで存在を肯定された気持ちになる。真っ直ぐと「軽蔑するわ」と言い放つ凛とした姿に惚れ惚れする。だがそれでいて単純な軽蔑だけがそこに存在しているわけでもなく、全編通して「人」を見つめ続けるファスビンダー映画にはどこまでも多義的な曖昧さのようなものが残る。最後の「〜に捧げる」と言ってショットをぐいぐいいくところは、ボブ・フォッシーの『ALL THAT JAZZ』、もっと言ってしまえばフェリーニの『8 1/2』で感じた人生の祝祭・最低版みたいな、勿論ここには拭いようのない絶望感があるのだが、特に「最も愛する人へ」のところなどでそうした別れの切なさを感じて、かなりぐっときてしまった。
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