伊達巻

プリシラの伊達巻のレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
3.7
映像がどうでもいい思い出みたいな淡白さを纏っていてそれがプリシラの記憶と重なって儚げに見える瞬間もあれば単に映画として物足りないと思う瞬間もあって、でもそういう遠い感触を抱いている途中、お腹の中でうごくいきものが産まれそうなときにあってまるで慣れたようにわたし自身が置きざりにされているというとき、彼女が独りで睫毛を立てる仕草の沈黙が恐ろしく近くに感じたりした。映像の遠い感触というのは多分プリシラがエルヴィスに惚れていた以外に自分のことを語らない時間が長いからなのかなと思って、ベッドでいつものようにエルヴィスが一人でなんか話してる時にプリシラが声を荒げて「そんなことはどうでもいい」みたいなことを言うんだけどそのとき初めてやっと彼女の声を聞いた気さえした。観てる時は終盤に至ってもありきたりに思えた展開と見応えのない映像に不満があったけど、今サントラ聴きながら思い返してみると誰かの助けを借りたりせず、劇的な復讐を図るでもなく、静かに自分の道を選択した彼女のやさしさとかしこさにちょっと泣きそうになってしまったりしている。それっておれの人生におけるさしあたりの主題でもあったりするのだ。EDのI Will Always Love Youも、その時はもはや悔しさすらあったが、今になってやっとその歌詞の底に眠る涙を堪えて笑うような悲しみをめちゃくちゃに喰らっていてとても苦しい。耳元で流れてるSpectrumのHow You Satisfy Meとかもっとカッコよくなっただろとかなんとか思うとこはやっぱりあるんだけどそれでも彼女の平凡とは言い難い人生における唯一の平凡な選択と共に、記憶に残る良い映画だったと思い直しつつある。あとおれバズラーマンの『エルヴィス』そんな良かった記憶がないんだけど流石にみかえしたい気持ちにはなった
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