こたつむり

誰も知らないのこたつむりのレビュー・感想・評価

誰も知らない(2004年製作の映画)
3.5
傑作であり、問題作であり、二度と観たくない作品。

日常を上手に切り取る観察眼。
演じる子供たちへの優しい視線。
“巣鴨子供置き去り事件”という実際に起きた育児放棄を背景に、是枝監督らしい表現で問題を投げ掛けてくる作品でした。

しかも、出演している子供たちが。
「そりゃあ、賞の一つや二つくらいは取るだろ」と呟くほどに自然。計算や打算を感じさせない視線と笑顔で、するっと心の中に滑り込んでくるのです。長男、長女、次男、次女。誰も彼もが“可能性”という光を放ち、とても眩しい限りでした。

だから、いつもの僕ならば。
手放しで「すげーすげー、是枝監督すげー。こんなにも子供たちの魅力を引出す監督サイコー」なんて絶賛するところなのですが。歯切れが悪くってしまうのは、一点だけ気になる部分があるからなのです。

それは、音楽の必要性。
時折、弦楽器の旋律が軽妙に流れるのですけどね。これは本作に必要だったのでしょうかね。

もしも、この音楽が無かったら。
子供たちの辛い現状が浮き彫りになり。胸が押し潰されて。金魚のように口を動かして。そして感情は、子供たちを棄てた母親に向かい「ざけんな、バーロー」と青筋立てながら感想を書いていたに違いないのです。

しかし、この音楽があるが故に。
子供たちだけで生きる姿が肯定され「あー。親は無くとも子は育つよなー」なんて呑気にも思ってしまって。でも、実際には飢えや寒さや暑さや寂しさなどの困難が子供たちを襲っていたのですからね。現実から目を背けた自分を呪いたくなりましたし、その方向性を指し示した演出に違和感を抱いたのです。

これは、僕の勝手な想像でありますが。
是枝監督の欲張りな部分が出てしまったのじゃあないでしょうか。愚かなる大人を糾弾しつつ、好奇心を去勢されても子供たちの生命力が弾ける様を描き、更には周囲の無関心さをも浮き彫りにする…そんな八方美人のような作品に仕上げてしまった、と思ったのです。

そう考えると。
本作の後に作られた是枝監督の作品がシンプルで力強いのは、監督自身もそう感じたから…というのは素人目線の穿った見方だと思いますけれども。まあ、そんなことを感じた作品なのでありました。

というわけで。
人間も生物である以上、“子供を生み育む”という行為に背を向けてはいけないわけで。本作を鑑賞し、そこで抱いた思いを少しでも現実に反映できれば、なんて思いますけれども。気軽に臨める作品ではないので、心にゆとりがあるときに是非。
こたつむり

こたつむり