J四郎

許されざる者のJ四郎のレビュー・感想・評価

許されざる者(1992年製作の映画)
4.5
クリント・イーストウッド監督・主演作。
衝撃を受けたこの映画も25年くらい前になるのか~と驚く。
ラストに出るように、イーストウッドの師匠に当たるドン・シーゲルとセルジオ・レオーネに捧げた作品でもある。
今回、特典映像を観るといかに彼がこの二人を敬愛していたか分かった。

この映画はよく言われているように西部劇を、そして暴力を否定するような作りになっている。
全編に渡ってその傾向があるけど、まずは颯爽と登場するイングリッシュ・ボブなる人物。普通ならカッコ良く活躍するだろうってキャラクター。
その自伝を書く作家を引き連れていて、「死の公爵」の二つ名を持ってるしな。でも、二丁拳銃やら彼の伝説の正体が暴かれてしまう。

そのボブと保安官ビルとのやり取りは、まるでメタなコメディだ。
もうこの時点で西部劇の美学を冷ややかな眼で見つめておる。
ジーン・ハックマン演じる保安官もある意味西部劇の象徴かもな。
この人が劇中で一番の存在感を持っているかも。
西部劇で描かれるドンパチって、ホンマはこんな不格好だとでも言いたげ。
ここでの銃ってモノの描写が凄かった。
画面から銃の恐ろしさ、そして重量が伝わる。

イーストウッド演じる主人公マニーは仲間を引き連れ、賞金目当てに牧童たちを狙う。
そいつらが冒頭で娼婦の顔を切り刻んだ為で、その外道っぷりに許せねぇと(&金のため)奮起する。でも、次に現れた娼婦は思ったより酷い状態じゃないぞ?しかも当の本人はそこまで復讐を願っているように思えない。
コレってぶっ殺す必要まであるのか?特に若い方の牧童なんて可哀想なんちゃうの?と普通なら思うはず。

西部劇では簡単にバンバンと撃ち殺しているが、この作品では一人を殺すにしても実に重みを感じる。
弾丸は簡単に当たらないし、え?本当に殺すんや?と変に緊迫感が出る。
撃たれた人間もすぐには死んでくれない。
銃撃戦にしたって、下手くそでぶっさいくでそれが逆にリアル。

クライマックスではマニーの正体が判明し、一番派手な銃撃戦になる。
しかし、ここでもカッコ良い!とは言い切れない。
カタルシスも感じず、むしろイヤな気分にさせられてしまう。
勧善懲悪とは程遠い内容で、人殺しに善悪なんぞないぜってとこか。
題名にある「許されざる者」って誰の事なのか?ハッキリと語ってくれないので観て判断しろぃって事なんだろう。

このテーマが更に煮詰まってあの傑作「グラン・トリノ」へ繋がって行ったんやな、と今なら気付く。
そういえば最近観た「ローガン」もこの映画と構造、精神性が似通っている。たぶんコレも元ネタの一つになってるんだろう。

今回はブルーレイで観た。
陰影の中での銃撃戦なんか、DVDとは雰囲気が段違いだった。映像も素晴らしいので出来るだけいい画質で観た方が良いかな~と思います。好き嫌いはあるだろうけど、これは間違いなく傑作です。
J四郎

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