このレビューはネタバレを含みます
トリアー作品。
ドッグヴィルに続編があったとは!
相変わらず、演劇ぽい撮り方が面白い。こちらの想像力を使うから、下手なセットよりも上質な絵になっていると感じます。
あと、ラストのヤングアメリカンズ、やっぱめちゃくちゃ良いすね!
話も、なかなか示唆深い…!
グレースの理念は立派なんだけど、こうも薄っぺらく映るとは…。
防風林を切っちゃったのが最たる例ですが、コミュニティの内実を理解しようとせず、自らの価値判断だけで物事を進め、事態が悪化していきます。
1番まずいのは、自らの理想やイデオロギーの実現のために、「対話」ではなく「権力」(暴力、パワー)を用いたことだと思います。
口先は立派でも、彼女の行動は全てがエゴに見える。そして、彼らの事情に耳を傾けなかったが故に失敗する。
ラスト、グレースは怒りに任せて鞭を振います。最初こそ鞭打ちを咎めた彼女でしたが、実のところ、彼女は一貫してパワーを用いる側なんですよね。
その暴力性に無自覚なのが恐ろしい。
そして、最後は、自らがパワーで制御される(住民に「ママ」を強制される)という意趣返しに遭う。上手い脚本だと思います。
グレース、めちゃくちゃ可愛いし、彼女が辛い目に遭うシーンは確かにきついんですよね。でも、やっぱりエゴが凄いから、観客のグレースへの加虐心が満たされる感覚もあります。
面白いバランスだけど、すごい趣味が悪いですよね。そう感じてる自分が、人間的にまずいのかも知れませんが。
あと、ラスト近くのどんでん返しは、シンプルに楽しめました!
「1番→7番」の仕掛けや、「ママの法律」の真相とか。時計がずれている伏線も、仕掛け方が上手いですよね。
ただ、この作品のテーマである黒人差別、奴隷制度へのメッセージは、読み取りが難しかったです。
「アメリカは、今なお、黒人を受け入れる準備ができていない。」、そういう批判なのだろうけど…。
でも、奴隷制度に縋り、留まり続ける黒人、という描き方はどうなんでしょうか?
そうせざるを得ない社会状況、というのを表現したいのだとは思いますが…。自らの才能と努力を駆使して、権利を勝ち得てきた人も大勢いると思いますし、なんか失礼な気もします。
この辺りのレイヤーは、あまり汲み取れていないのかも知れません。
また、物語の胸糞度や、ラストのカタルシスは、やっぱりドッグヴィルの方が上だったかな。
本作も、もちろん良作だとは思いますが、前作ほどの胸の震えはなかったです。
「アメリカ三部作」、まだ未完なんですよね?トリアー、3作目を作らないかな。
是非とも劇場で観たいですね!