せんきち

恐怖のせんきちのレビュー・感想・評価

恐怖(2009年製作の映画)
2.0
高橋洋監督。やりたいことは分かるが伝わらず。

Jホラーシアター完結編。

脳のシルビウス裂に電気刺激を与えると臨死体験を得られるという実際の実験を元にして作られたホラー映画。

狂った脳外科医の母(片平なぎさ)と、母に脳手術を受け見えないものが見えてしまうようになった姉みゆき、失踪した姉を探す妹かおり。この家族に共通するものはかつて”白い光”を見たことだ。劇中頻繁に出現する”白い光”は死の象徴でもあり、この世を越えた世界の象徴でもある。

脳手術を得て見えないものが見えるようになるのは山本英夫「ホムンクルス」を思わせる。しかし、高橋洋の場合はより難解だ。所謂、死後の世界が見えるのかな?と思ったがどうも違うようだ。この映画では死後の世界を一般に想像されるようなものと規定していない。脳手術をする事によって人間の限界を越えた世界が見えるようになる。そこで見えるものは、”白くうごめく何か”...


高橋洋が自分が本当に怖いものを撮ったと語っているが、ホラー原理主義者は”怖い”とは何かを四六時中考えているような人なので既に一般人が思う”怖い”を遥かに越えているので普通の人が観たら”怖い”というよりどうかしている世界だ。この濃い世界を映画化するとホラーではなくコメディになってしまう。「恐怖」はギリギリの線でホラー映画になっているが、一歩間違えれば「発狂する唇」「血を吸う宇宙」(共に脚本は高橋洋)のようにホラーカルトコメディになってしまうだろう。

「恐怖」は高橋洋の本格的長編デビューにあたるが、本作や超低予算の「ソドムの市」を観る限り監督の資質は高くない。本作の濡れ場演出のぎこちなさは笑った。まだこれからと言うべきなのか。近年、高橋洋が影響された狂気の作品としてサイボーグ009(旧)「太平洋の亡霊」「復讐鬼」を挙げている。「太平洋の亡霊」なんかは高橋洋が狂気の作品と言うまでは反戦の名作と紹介されていたんですけど。流石、ホラー原理主義者は違う。もう普通の”怖い”なんか通り越した所で怖がってるんだもんなあ。本作のついていけなさもそれに由来する。やっぱり高橋洋は脚本家のままが良いと思うなあ、これを適度に一般化してくれる監督と組まないとただのカルト作品になってしまうような気がします。
せんきち

せんきち