囚人13号

戦火のかなたの囚人13号のネタバレレビュー・内容・結末

戦火のかなた(1946年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

6つのエピソードからなるオムニバス映画。ネオレアリズモの代表格だが実に多様な人種が登場し、それぞれが必死に生きているのだから苦しんでいるのは前線の兵士やイタリア人ばかりではないと知る。

【1】シチリアのある村における、娘とアメリカ人兵士による言葉の通じない恋と暗い結末。暗闇で仲間の帰りを待つ兵士と道案内の女というワンシチュエーションのため露骨な描写が無く、二人はキスすら交わさない。もしかしたらそこに恋心などなかったのかもしれない。イギリスのイーリングスタジオあたりが得意とする歴史には残らない、いずれは村民ですら忘れてしまうであろう小さな戦争秘話だがこれが妙に心に残る。

【2】黒人警官とイタリア少年の奇妙な出会い。
長年虐げられてきた人種が、自分よりも酷い暮らしをしている白人を目にするという皮肉。個人的にはこれが一番好みかも。

【3】街娼もどきの不法労働で捕まりかけた女が間一髪で逃げ、早速カモと見定めた酔っ払い兵士を家に招き入れるが、彼の語る過去は女にとっても忘れえぬ思い出であった。本編中最もアメリカ的で、運命論的な嫌いはあるもののグダグダと110分かけて語るよりも逆に20分という短さで終える簡潔さに余韻を味わえる。

【4】看護婦の女が抵抗運動の指導者となった恋人を捜すため、家族とはぐれた男と共に市街戦の中を突破していく。珍しくサスペンスフルだが荒廃した町を捉えたロングショットが虚しく、そこを全身黒ずくめの人々が赤十字の旗を掲げ、遺体を荷車で引いていくという異様な光景に圧倒される。

【5】イタリアとアメリカの宗教対立。僧院が宿を提供した米国従軍司祭が対立する宗派であったために確執が起こる。倫理観を押し付けるのは良くないと学ぶがどうも説教臭く、見方によっては一番退屈かも。

【6】こちらもエピソード4のようなゲリラ兵とドイツ軍の戦いを描いているが、レジスタンス側はもはや壊滅状態、彼らは精一杯抵抗を続けるも捕われ、最後には全員処刑される。『無防備都市』と同じくドイツ軍の残忍さが糾弾されていて、死体が「ゲリラ兵」と書かれた看板と共に川を流れてくる場面や親の死骸の傍らで泣き叫んでいる小児など強烈で生々しいイメージが氾濫する。前5篇にも増して戦争の悲惨さが色濃く現れており、このオムニバスを締め括るに相応しい挿話!


本作においては男女は絶対に結ばれず、レジスタンスも恐らく全員が死ぬ。強烈な反戦映画だが、ドイツ兵はもちろん抵抗運動家もイタリア人兵士でさえ彼らの存在は正当化されていない。逆に時代の被害者である少年や街娼、人々の心の拠り所である聖職者は死なない。彼らだけでも強く生きてほしいと願うのみ…。
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