本作におけるヒップホップは「音楽」である以前に成り上がりの手段であり、日々溜まってゆく不満や鬱屈のプレゼンだ。アメリカ深南部の不穏な空気、そして「犬」のように必死で卑俗な主人公の言動と同様、作中のヒップホップはそれ自体が主題ではあり得ず、重要でこそあれあくまでもパーツでしかない。
にもかかわらず、本作を観ていてビートとラップが流れ出した瞬間に鳥肌が立つほど感動するのはなぜだろう?「音楽の力」などという存在すら怪しい代物に対して無条件に寄りかかった数多の音楽映画など、この映画のタフさの前では何の値打ちもない。