松原慶太

エレファントの松原慶太のレビュー・感想・評価

エレファント(2003年製作の映画)
4.3
99年の「コロンバイン高校乱射事件」を題材にした作品。なにげない日常に、ふとしたキッカケで暴力がまぎれこんでしまうようすを、フラットな語り口で描いている。ガス・ヴァン・サント何本か見ている筈だけど、最高傑作だと思う。

テーマの重さとくらべると、映像は光に満ちあふれ、サウンドも静かで、BGMは何度かかかるベートーヴェンのピアノソナタのみ。

ストーリーテリングは、いわゆる「桐島、部活やめるってよ」方式。製作年度を考えると、こちらが元ネタだったのだろう。とはいえ、語りの形式が必要以上に悪目立ちすることもなく、内容とすんなりフィットしている。

ディテールはじっさいの事件とは異なる部分も多いし、そもそも高校生たちの名前は、オーディションで選ばれた素人の子たちの実名。台詞もほとんどアドリブだという。

ということは、つまりこの映画はじっさいの事件を詳細に再現することが目的ではなく、普通のリアルな高校生たちの前に、銃を持った同級生があらわれたとしたらどうなるか。その部分でのリアリティを描こうとしているのだと考えられる。

この映画が成功したのは、犯人たちの内面をことさら描かなかったからだと思う。もしも、とって付けたように動機を説明してしまえば、すべてが噓くさくなってしまう。なぜ、かれらが銃を取ったのか、答えはまだどこにもないのだから。
松原慶太

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