よねっきー

レスラーのよねっきーのレビュー・感想・評価

レスラー(2008年製作の映画)
4.5
まっすぐに殴り合い、ぶつかり合うボクシングに比べると、プロレスは「折り合いをつける」競技なのかな、と観ていて思った。プロレスのそういう性格が、ストーリー含め映画全体にも漂っているように思う。

そもそもプロレスにはベビーフェイス(善玉)とヒール(悪玉)がいるわけで、その戦いはハナから仕組まれているにすぎない。筋骨隆々の男たちは出番前に「お前がその技使うならおれはこっちにしよう」と、互いに折り合いをつけていく。それは言ってしまえば「ヤラセ」ってやつなんだけど、そこにプロレスという仕事の哀愁があるように思った。どうせたくさん怪我するし、傷跡も残るけど、その前に話し合う。すべては観客のために。

心臓発作によってプロレスができなくなってしまったランディは、自分の人生とも折り合いをつけはじめる。パートタイムで稼ぐしかないならその時間をできるだけ楽しもうとするし、嫌われてる娘にも会って話しておく。でもどれも、やっぱ不器用で上手くいかないのだ。掴みかけたチャンスも無駄にしてしまう。ランディに上手くできるのはプロレスだけ。

だから「折り合いのつけられなかったもの」として最後の試合があるんだと思う。いやあ、ラストの戦いがヤラセの映画なんて初めて見たなあ。だからこそめちゃくちゃ良いシーンになってるし。観客だけじゃなく、ヒールも含めてみんな、ランディを応援している。その歓声を受けてランディは飛躍する——しかし1番見てほしい人は見てくれないのである! だってよく知る人が血を出すのって見てらんないもんね。最後まで哀愁たっぷり。哀愁トッポ。
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