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ジャッキー・ブラウンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ジャッキー・ブラウン(1997年製作の映画)
3.9
 ロサンゼルス・コンプトン。ジャッキー・ブラウン(パム・グリアー)はメキシコの航空会社に勤めるスチュワーデス。安月給で苦しい生活のため、裏で武器密売人オディール・ロビー(サミュエル・L・ジャクソン)の隠し金の運び屋をつとめていた。オディールは刑務所を出たばかりで少しボケ気味の相棒ルイス・ガーラ(ロバート・デ・ニーロ)を連れて、保釈金融業者のマックス・チェリー(ロバート・フォースター)の元へ赴く。逮捕された配下のボーマンの保釈のためだったが、オデールは保釈されたボーマン(クリス・タッカー)の口を自ら封じ、ルイスに服従を誓わせる。『コフィー』では昼間は看護師をしながら、夜は娼婦で稼ぐ2重生活だったが、今作も例外ではない。彼女はスーツ姿もバッチリ決まったCAでありながら、実は運び屋として暗躍する裏の顔を持つ。ジャッキー・ブラウンが怯えるのは、同じ黒人である銃の密売人オディールである。黒人が黒人を搾取する構図は、今作の中で何度も繰り返される。ピンプと呼ばれる派手な衣装を着た黒人は、貧しい白人をも搾取しながら、ビッグ・ビジネスをしているのである。

 ジャッキー・ブラウンの心強い味方となるロバート・フォスターのコクのある渋みや、マイケル・キートン扮するFBI捜査官など、癖は強いが頼りになるキャラクター造形もさることながら、今作ではむしろ敵役の人選こそ冴えに冴える。特にサミュエル・L・ジャクソンの刑務所時代の仲間で、最近銀行強盗の罪から出所したロバート・デ・ニーロの老いぼれぶりが絶妙である。タランティーノは『レザボア・ドッグス』でもハーヴェイ・カイテルを、『パルプ・フィクション』でもジョン・トラボルタやブルース・ウィリスを独特の人物造形でハリウッドに見事蘇らせたが、今作のロバート・デ・ニーロの疲れ果てた演技は、悪役としてこれ以上ない存在感を放つ。また彼の相棒として体を預けるドラッグ・ジャンキー役のブリジット・フォンダもすこぶる良い。ピーター・フォンダの娘であるブリジット・フォンダや、キース・キャラダインとは異母兄弟のマイケル・ボーウェンなど、アメリカ映画の血筋にもこだわった配役を見せている。

 今作も正面切ったアクション映画とはならず、悪と悪との恐るべき心理戦である。ジャッキー・ブラウンはオディールによって先んじて保釈されたボーマン(クリス・タッカー)が既に彼の手により消されたことを自覚しており、自分の運命も同じく銃殺刑に処されることを知っている。だからこそオディールと親しげに振舞いながらも、彼に決して油断しない。彼の性格を把握した上で、FBIや保釈業者と結託し、お互いwin-winの関係を続けながら、敵が油断する時を今か今かと待ちわびているのである。『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』では登場人物たちの凶行が昼間に行われていたのに対して、二重生活を続けるジャッキー・ブラウンにとって、重要な事件は夜の闇の中で起こる。コンプトンの閑静な住宅街の中で、ホンダ製のシビックを乗り回し、デルフォニックスを愛聴するジャッキー・ブラウンは、夜の闇の中で粛々と包囲網を築いていく。『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』、『マッド・ドッグ/ファイアー・ガンを持つ豚ども』、そしてバート・レイノルズの『シャーキーズ・マシン』のオープニング・テーマだったRandy Crawfordの『Street Life』もファンには堪らない。センスの塊の155分に酔いしれる。
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