増村保造監督の四作品目です。『くちづけ』、『青空娘』に『暖流』と順調にキャリアを積んできた増村保造監督が挑む当時の大ヒット小説の映画化です。しかし、残念ながらとても消化不良な作品となってしまいました。
まず、褒めてみる。カットは素晴らしいです。冒頭のタクシーの中とか照明の当て方が効果的。また、オフィスの中の移動ショットもピタッとキマっている。冬山のロケとセットのつなぎもとても自然です。ストーリーを無視してカットだけ見るのであれば、本当に素晴らしい映画!
次にダメなところ。キャラクターの描き込みが全く足りていません。新藤兼人の脚本を見た時に、それは増村保造監督自身が感じたことのようです。ヒロインはダークな人妻、八代美那子(山本富士子)と明るい友人の妹、小坂かおる(野添ひとみ)の二人です。どっちかに焦点を当てればよかったのになー!前作の『暖流』はそれで成功したんですよ。山本富士子も中途半端な魔性の女だし、野添ひとみも中途半端に一途な女。どっちかが『暖流』の左幸子みたいにメーターを振り切ってくれたらよかったのに!