みかんぼうや

お嬢さん乾杯!のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

お嬢さん乾杯!(1949年製作の映画)
3.9
「二十四の瞳」や「永遠の人」の木下恵介監督5作品目。自動車工場経営が成功して金持ちになった少し粗暴だが気前がいい男の石津と、今は落ちぶれた元上流家庭の娘でおしとやかで美しく気品に溢れた泰子の2人による恋愛劇。この作品、“元祖こじらせ系恋愛邦画”と言っても良いのでは?分かりやすいストーリーで2人の男女の心境の変化などを丁寧に描いた脚本や演出が面白かったです。

価値観も生きてきた世界も大きく異なる男女が、お見合いという形で結婚を前提にお付き合いを始めるなか、お互いがお互いの世界に飛び込み、そのギャップを埋めようとするも、それぞれが感じるちょっとした違和感。石津という男に対して決して悪い印象があるわけではなく、思考的には好きになろうと努力するのに感情的に飛び込んでいけない泰子と、泰子の美貌に惚れ込み盲目的にその心を射止めようとするも、泰子の気持ちを徐々に察し始める石津。

この2人の微妙な感情のズレやそこから生まれる気持ちのすれ違い、そして2人の関係性の変化は、今見ると、いかにもトレンディドラマで扱われそうなこじらせ恋愛のようですが、本作公開当時の1940~50年代では、意外とこういう邦画は珍しかったのでは、なんて思いました(最近この時代の邦画を多く観ていますが、あまり本作のような作品が思いつかないので)。一方、同じく40~50年代の洋画には、こういう展開の作品が多い印象があり、重要な場面で流れるクラシック音楽の使い方なども相まって、本作からはどこか洋画の恋愛物のような印象を受けました(もちろん画的にも思いっきり邦画なのですが)。

ヒロイン役を演じたのは、小津作品でおなじみ、昭和の伝説の女優、原節子。本作の泰子の役柄で重要となる、気品、美しさ、しおらしさを兼ね備えた完璧なまでの女性像は、原節子に対するイメージそのまま(実際の人格等は知りませんが)。

本作は泰子の魅力にどこまで惹かれるかが作品そのものの魅力や評価に繋がると思いますが、まさに原節子自身の魅力が溢れていて、彼女が演じたからこそ、ここまで魅力的な作品になったのではないかと思います。

木下監督が描く人物たちは、どの作品でも本当に魅力的な人間ばかり。とにかく名作が多い監督ですので、今年も木下作品をどんどん観ていきたいと思います。
みかんぼうや

みかんぼうや