改名した三島こねこ

蝿の王の改名した三島こねこのレビュー・感想・評価

蝿の王(1990年製作の映画)
3.8
<概説>

W・ゴールディングによる同名小説を再度映画化。孤島に漂流した少年達は次第に理性がはがれ、野蛮へと回帰していく。

<感想>

原作は文明主義批判的な文脈から読まれることが主流な作品ですが、こうして映像化されるとむしろ理智への賛美も見て取れるような気がしました。

知の不在によって作中の文化水準は原始時代レベルにまで失墜します。

これは人間の獣性を可視化する効果もあるのですが、映像として少年が活動することで、一方の大人がいないことも強調されるのですね。

大人とはつまり現在の知識の貯蔵庫であり、それを次世代へ継承する担い手。仮にその継承が行われずに大人が消失したなら、これまで蓄積した人智は零へと回帰します。

この喪失を嘆くまでは文面でも可能ですが、喪失以前にまで思考力が割けるのは映像ならでは。これまで多様な手段で叡智を零から積み重ねて、今の文明にまで発展させたことの尊さに気がつくことになりました。

そうなってくると批判の対象になる最後の軍隊という暴力的な知性も、少年達の竹槍との対比でいっそ感動すら覚えます。

偏執的なまでの知への渇望。
暴力的な本能へ服従する獣性。

この二者は人類史という物語上に連続しているはずなのに、なぜこうも異なって見えるのか。それは知識の継承という生産的行為に与えられた、莫大なまでの時間によるものなのかもしれません。