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エクステのワシのネタバレレビュー・内容・結末

エクステ(2007年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

【前書き】
気の向くままにJホラー作品を観ていく。
今回は2007年の『エクステ』。
園子温の監督・原案・脚本によるホラー作品。

【雑感】
呪いが関係した話なんだけど、一般的にいわれるJホラーとは異質な作品だった。
洋画のバケモノ映画っぽい雰囲気も、結構入ってたんじゃないかな?
そして本来の園子温なら、もっとシッチャカメッチャカやっちゃいそうだけど、比較的無難にまとまってる印象を受けた。

話のベースになってるのは、呪われた髪の毛が巻き起こす怪異。
エクステは安価な人工毛も用いられるが、熱に強くスタイリングしやすいなどの理由から、人毛も多く使用されてるとか。
そこで、いくら消毒や洗浄してるとは言え、誰のものとも知れない髪の毛を装着することに、一抹の不安を抱くことはあるんだろう。
本作で描かれるエクステの恐怖は、そんな不安を増幅して描いたものだと言えるだろうか。

ヘアーエクステンション(以下エクステ)として配布された髪の呪いが、それを装着した人を無差別に呪って悲惨な目に遭わせていく。
体のいたるところから発毛するシーンは絶妙な気持ち悪さで、なんだか体がムズムズしてしまう(特に目はヤバい)
ふと思ったことだけど、こうした発毛の表現による恐怖は「ムダ毛は処理すべき」という風潮が生む、強迫観念の裏返しだったりするのかな?

この呪いの髪の毛エピソードでは、呪いの大元である女性死体の背景も描かれる。
そこには臓器売買組織による女性への酷い扱いがあり、呪いとはまた違ったタイプの現実的な恐怖が描かれる。
本来の園子温なら、こういったエグ味のある場面は露骨な表現をしそうだが、本作ではかなりおとなしい表現に留めている。
これは視聴年齢のレーティングに配慮してのことだろう。

ここへさらに、2つのエピソードが積み上げられる。
ひとつは、呪われた髪の毛に魅せられた髪フェチ男・山崎のエピソード。

髪の呪いは独力では拡散出来ないので他者の助けを必要とし、その役目を負ってるのが、女性の髪に異常なまでの執着を見せる変態男・山崎だ。
彼は呪われた髪を採取し、エクステとして美容室などへ配布して回っている。

しかし作中ではそんな役割以上に、彼が変態であるが故のエキセントリックさや、キモカワな言動が際立っていて、その姿はまるで本作における“道化師”のよう。
呪いの拡散を助ける悪者でありながら、どこか憎めない雰囲気を持つコミカルな役柄を、大杉漣が怪演している。

そしてふたつ目は、美容師の卵である主人公・水島優子に関するエピソード。
このエピソードはお仕事コメディドラマ風に始まるが、当然のことながら、こちらも穏やかにはいかない。
ろくでなしの姉・清美の娘・マミを預かったことにより、彼女の日常はかき乱されてしまう。

ここで登場する姉の毒親ぶりが清々しいほどにクソだし、娘への虐待ぶりも胸糞悪い。
姉の性根の悪さや虐待の様子がしつこい位にしっかり描かれるので、観ていてウンザリした気持ちになりかけるが、それがしっかり描かれてるからこそ、後の展開が活きてる。

これらのエピソードが絡み合いながら物語は展開し、やがて主人公の周囲にも呪いの魔の手が迫る。
ピンチに陥った主人公や、虐待されてたマミの命運は如何に?…という具合に話は進んでいく。

終盤に向かうに連れ、呪いの髪の発毛は爆発的なものになり、その毛量には怖さよりも、可笑しさの方が勝ってくる。
なんとなくだけど、膨大な髪の毛のモコモコした感じから、むかし観た『ブロブ 宇宙からの不明物体』を連想してしまった。

さらに変態山崎は、海外ホラーによく登場する“クラウン”となり、好き勝手やりたい放題だ。
もうここまで来ると、シチュエーションはホラー映画だけど、やってることはコメディだよね。
大杉漣の怪演ぶりがオモロすぎて、爽やかなラストシーンが全然頭に残らない笑

一般的なJホラーのような、暗くジメジメした雰囲気は少なく、どこかアッケラカンとした明るさがある。
しかしながら怖さの性質は複合的で、呪いの怖さに加えて、現実的でリアルな怖さや生理的な怖さがミックスされた内容だ。

どこか混沌としていながら、話の筋はちゃんと通っていて、しっかりエンタメしてるところは、さすが園子温といった感じ。
だからといって彼の代表作とされる『冷たい熱帯魚』や『恋の罪』などのようなエグさや暴力性を期待すると、やはり物足りなく見えてしまう。
まぁそれはそれとして、大杉漣の活躍のおかげで割りと楽しめた作品だった。
今回はこんな感じでした。

【後書き】
調べてみたらこの作品は、レーティングの無い一般作品なんだそうだ。
そんな全年齢が視聴可能な作品に、児童虐待や臓器売買、そしてガチ変態まで登場させるところは、やはり園子温らしいと言えそう。
しかし先述のように、映像表現において園子温らしいアクの強さは抑えられてるので、ホラー映画の割りには比較的見やすい作品だと言えそう。
園子温ビギナー向けの入門編としてはいいかも?

【余談】
もうね、本作の主演は大杉漣でいいんじゃないの?
海に向かって「生えてるー!!」に爆笑。
「もう怒ったぞ!」というセリフは、「毛(もう)怒ったぞ!」に脳内再生されるほどでした笑
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