みかんぼうや

ストレイト・ストーリーのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

ストレイト・ストーリー(1999年製作の映画)
3.8
この作品、監督を知らずに観たら、あの「イレイザー・ヘッド」や「マルホランド・ドライブ」を作ったデヴィッド・リンチの作品だと気付いただろうか?それほどに、ハートウォーミングで正統派なシニアロードムービー。まるで、マキシマム・ザ・ホルモンが正統派バラードを発表したかのような作品(分かる人だけ分かってくだされば・・・)。

デヴィッド・リンチは私が“超”がつくほど好きな「イレイザー・ヘッド」「エレファントマン」「マルホランド・ドライブ」を作った特に好きな監督の一人ですが、実はこの作品は初鑑賞。というのも、本作公開当時(大学生の頃)、バイト先の仲間(同じく大学生)がバイト前に劇場鑑賞して、「ひたすら草刈り機で移動するだけで、ゆったりとして面白くなかった」と言っていたことがずっと頭にこびりついていたからです。

その頃は、私はリンチ作品を観たことがなかったので、「え!リンチなのに?」という感覚すら湧かず、リンチ=本作という印象からスタートして無意識のうちに本作を遠ざけていたのです。その後、上記に挙げた作品たちでリンチワールドに飲み込まれたわけですが、大学時代の記憶が抜け切れていなかったのか、この作品だけは無意識に遠ざけていました。あと、“ロードムービー”というジャンルがあまり得意でないこともあったかもしれません。

ですが、本作、良かった~!いや、きっと大学生の時に観ていたら、彼と同じように「面白くない」という評価をしていたかもしれない。その頃は自分の家族などあまりかえりみず、とにかく目の前のことを気の合う仲間と楽しむ事しか考えていなかったから。

今は40代半ばになり、この歳になって、自分より1周りも2周りも違う世代との考え方や価値観の違いを感じたり(個人的にはそれが楽しくて仕方がない)、これまで家族に起きた出来事やこれからの親や妹のことなどを色々考えるようになったことで、本作の一つひとつの台詞や会話が胸に沁みるし、伝えたいことをある程度しっかりと受けとめられる。

時折どアップで見せる人物の表情と芝刈り機を直すぼったくり兄弟以外は、それまで観てきたリンチ要素を感じさせる部分はほとんどありませんでした。が、言葉数少なくとも、間と表情でメッセージを語るリンチ、やはり凄い。文字通り、言葉を交わさずとも万感の思いが通じ合うあのラストの表情、リンチ作品の中でも屈指の名シーンでした!
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