ひば

ストレイト・ストーリーのひばのレビュー・感想・評価

ストレイト・ストーリー(1999年製作の映画)
4.5
仲違いした兄弟が倒れ、10年ぶりの再会を望み車で行けば半日の距離を、自らの力でトラクターに乗って1ヶ月近くかけ…ただ、一緒に星を眺めたい。それだけの為に。

苦労と努力は違うものではないだろうか。そうしなくてはいけない為つらい思いを重ねるのが苦労。目的の為に自ら邁進するのが努力。主人公の彼は恐らく後者。でも他人には前者に見えているのだろう。自分の全精力を尽くし雄大な未知なる大地を走る。自分の力で、貴方に会う為に。ただその1つの願いこそ、努力という言葉の真価が発揮される。苦労じゃないんだこれは。そこが大事なんだよね、この話は。

「年を取っていいことは?」
「経験を積むからね。実と殻の区別がついてきて細かいことは気にならなくなる」
「年を取って最悪なのは?」
「若い頃を覚えていることだ」
ゆくゆくこの会話の重さを思い知ると同時に、私も1秒1秒年を取っていく。今でさえ嫌な思い出が溢れているというのにため息が出てしまうが、細部が気にならなくなるというのは本当に素晴らしいことだ。きっと人や物、自然、時間、すべてに対して寛大になっていくからだろう。私を取り巻くすべてが私と共に時を刻んでいることに気付くからだ。死の秘宝の物語のように、ゆくゆくは死さえも同じ仲間として迎え入れられたらそれは素晴らしいだろう。

妊娠し家を出た少女は、家族もみんなも私を嫌っていると言う。そんな彼女にかけた言葉。
「誰もあんたやおなかの子を失ってもいいほど怒ってやしない」
何故かとても胸に響いた。『貴方は愛されている』とは言わなかったことについて考えのだけど、愛というものは平然と当然とそこにあって、誰しもが平等に恩恵を受けているものなのではないか。マイナスの感情は仕事(W)をして生まれるものだと私は思う。自動的に愛が生まれるというのは少々過剰だけど、愛があるから善がある。人は常に善であるものと皆が信じている、善の根底には愛があるからだ。そういうことなんじゃないだろうか。人はみな愛されているという真理を言葉にする必要はない。そこに常にある。そうだといいな、と思った。

危ない目に会う度もう無理なんじゃないかとひやひや。ただの丘でさえスピードオーバーで大変なことに。でも、『それくらいなんともないさ』と貫く彼を見て、あぁ彼に超えられないものなどない、だってこんなに強い気持ちが守ってくれているのだから!色んな人がいる。色んな景色がある。なんて素敵なことなんだろう!とても良い作品でした
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