みかんぼうや

クレイマー、クレイマーのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

クレイマー、クレイマー(1979年製作の映画)
4.0
【思いのほかコテコテ感動演出がなく好感。王道ヒューマンドラマの王道たる所以を感じる一本】

超有名作で以前からずっと見てみたい、と思いつつ、あまり自分が好きではないコテコテの泣かせ演出&音楽満載のアメリカ感動映画なのでは、という懸念もあり、イマイチ手が出せないリストに入っていた作品。が、最近ヨーロッパ映画やトリッキーな映画を多く見ていて、ストレートなアメリカンヒューマンドラマを見ていなかったせいか、急に体がそれを渇望し、ここぞとばかりに本作を視聴。いや~、結構泣かされました。

まず一番意外だったのは、予想していたコテコテの泣かせ演出&感動的音楽がなかったこと。物語は家庭を顧みず仕事に明け暮れ離婚した夫婦の子どもの親権争い、というよくありそうなヒューマンドラマの題材なので、演出次第で相当印象が変わり、いくらでも派手にできそうな作品。ですが、思いのほかドラマチックな演出があるわけでもなく各シーンもテンポ良く淡々と進んでいきます。この作風は、大げさでわざとらしい泣かせ演出を見ると一気に引いてしまう自分としては、とても好感が持てました。もちろん、途中に出てくる「子どもの涙」という最強の武器には涙腺を刺激されるわけですが、これも全然大げさではなくリアリティを感じるシチュエーションでした。私的には、子どもの涙そのものよりも、後半のフレンチトーストをうまく作る2人の姿に、それまでの過程を自然と想起させられ、グッとくるものがありました。

また、離婚後の子どもを育てるのが母親ではなく、父親というシングルファーザー物は個人的にあまり見てこなかったことと(「アイ・アム・サム」くらいでしょうか)、新鮮さもあり、また私自身が母子家庭で育ち物心ついた時には父親がいなかったこともあるのか、仕事と子育てを孤軍奮闘でなんとか両立させ息子との深い絆で結ばれていく父の姿を見ると、思わずグッとくるものがありました。

強いて苦言をあげるとすると、母親の視点は後半までほとんど出てこないので、母親が少し悪者のように映り、父親への肩入れに寄せられるところでしょうか。ラストシーンは人によって評価が分かれるようですが、私はあの終わり方が素敵だと思います。が、その後のシーンを想像すると、子どもの振り回された感は少し可哀そうだな、とも思いました。

久しぶりにアメリカの王道ヒューマンドラマを見た感覚ですが、分かりやすさの中にしっかりとしたメッセージを感じ、面白い物語をしっかりとした脚本、人物描写で丁寧に描いていけば、大げさな感動的演出や音楽が無くとも(むしろ無いほうが!?)十二分に素晴らしい感動を与えてくれる作品になるのだ、ということを改めて気づかされた、まさに王道の王道たる所以を感じた一本でした。
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