ゴロー

オアシスのゴローのレビュー・感想・評価

オアシス(2002年製作の映画)
4.0
「前科」持ちでうまく社会に馴染めず、家族からも疎まれている青年と脳性麻痺を患う女性の恋愛を描いた作品。二人の社会的弱者は自分に初めてちゃんと向き合ってくれる相手と出会い、奇妙だが確かな愛を育む。しかし。。

社会のはみ出し者を撮ることに長けたイ・チャンドン監督であるが、本作でも「ペパーミント・キャンディー」「バーニング」と同様ミクロの視点を描きながらその背後にマクロな背景がうっすらと浮かび上がる。二人はそもそも社会から排除された存在だが、その二人の家族もおおよそ裕福とはいえない。やや誇張して言えば二つの家族ごと、平穏な社会秩序を乱す存在と見なされていると言えるかもしれない。社会的に恵まれている層にとっては、本作の一連の出来事は「視界に入らない」。

劇中、女性が健常者に戻るシーンが差し込まれるが、これが強烈である(そのタイミング、頻度が絶妙である。ムン・ソリの演技も凄まじい)。このシーンの美しさには息を飲むがそれは同時に、自分の偏見もあぶり出されるような感覚に陥る。鑑賞中、二人の家族の利己的な振る舞いには不快な感情を覚えるが、このシーンは「彼女が健常者だったらな」とか「彼がもう少し上手く立ち回れたらな」という観客の心の奥底にある意識の問題も浮かび上がらせる(少なくとも自分はそうだった)。

しかし、あのラストシーンから想像するに、そんな身勝手な周囲、そして観客を他所に、二人はこれからも(こんな言い方は陳腐かつ受け手の勝手な願望なのだが)愛を育むだろう。彼らの「オアシス」は誰にも侵すことができないのだから。
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