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オアシスのeyeのネタバレレビュー・内容・結末

オアシス(2002年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

"オアシス"(2002)

本当に素晴らしい映画

"人を愛する" 

ということについて
根本概念を捉えつつ覆す

胸に刺さった後に
更にえぐってくる

綺麗事を並べる
微笑ましい
御涙頂戴
メロドラマ
性愛

そんな次元にないレベル

イ・チャンドン監督が撮る映画は
神がかってる

『バーニング 劇場版』(2018)
『ペパーミントキャンディー』(1999)

そして

『オアシス』(2002)

どの作品も観たあとに
価値観や感情が揺さぶられる

何かに対し
概念の問いかけを含んでいる

単なる娯楽映画の域ではなく
遥か先にある『芸術』といえる

オアシスは

"乾燥した場所における緑地"

あるいは
比喩表現で用いられる

"疲れを癒して心に安らぎを
与えてくれる場所"

を指す

壁にかかる絵には
"オアシス"
と書かれた文字と一緒に

・インドの女性
・象使いの男の子
・象

が描かれている

そこには夜になると絵にかかるように暗い木々の影も多く写り込んでいる

ムン・ソリ演じる
重度脳性麻痺のコンジュは
ラジオをつけて
常に人の気配を感じている

コンジュを演じる上で
顔から脚、腕を含め全身の歪みを表現するため身体に相当な負担を強いて

実際に治療が必要なレベルになったとも言われている

身を削って演じるその姿は
まるで鬼神のよう

演技力に脱帽してしまう

そしてジョンドゥ演じる
ソル・ギョングも変わらず圧巻

貧乏ゆすり
鼻すすりなどチック症に加え
向こう見ずな衝動的行動を
細かく体現してる

2人は周囲から疎外され続け
厄介者のような扱いをされている

身障者住宅にコンジュが住むわけではなく彼女は名貸しで利用されてたり

飲食店や警察官からの
コンジュに対する強い偏見や差別
哀れみの眼差しを受け続けている

2人が一緒に過ごしていく中で

コンジュが脳性麻痺でない
健常なシーンが数回挟み込まれる

・電車内でイチャつくカップルと同じようにイチャついてみる

・カラオケでは歌えなかった歌をジョンドゥに披露する

・オアシスに描かれる各々と一緒に踊る

・喧嘩をしてみる

表情や佇まいを変えるだけで
雰囲気がここまで変わるのかと

その演技に度肝を抜かれてしまった

2人を同情する気持ちの中で健常者と同じように過ごせないことを

失礼ながらも哀れんでしまう
自分に悲しくなってしまった

自分もそういう偏見の眼差しで
2人をみているのだと気づき

「差別している人となんら変わらない」と感じてしまった

価値観を揺さぶられるシーンは
何度何度も訪れる

ジョンドゥは
コンジュへの想いを馳せ

怖くないように

影になって伸びている木の枝を
次々と切り倒す

彼女の心に影が
決して覆わないように

愚直だが真っ直ぐで
真摯なその姿に心撃たれる

コンジュは声が出せない代わりに
ラジオのヴォリュームを最大限に上げてお礼を伝える

結果として捕まってしまうけれど

服役中のジョンドゥからは
寂しくないように

近況の手紙が届く

明るい日差しが
たくさん部屋の中に注ぎ込むラストに

コンジュは穏やかな表情をしている

揺れる影を溶かして人生を照らす
明るさが映し出される

未来も明るいかのように
コンジュも笑って生きている

命ある思いはやがて魂となり
心に安らぎを与えてくれる

コンジュにとって
ジョンドゥの存在自体が

"砂漠の中の緑地"であって

"心の安らぎを与えてくれる"

そして

"オアシス"

になったことを教えてくれる
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