Mikiyoshi1986

地獄の掟に明日はないのMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

地獄の掟に明日はない(1966年製作の映画)
4.3
本日11月10日は83歳で没した日本最高峰の名優・高倉健さんの命日。
早いもので没後3年が経過します。

彼の遺作「あなたへ」を監督した降旗康男とは東映時代から実に半世紀近くコンビを組み続けた盟友であり、
本作「地獄の掟に明日はない」はまだ監督デビュー1年目のド新人だった降旗が、健さんと初タッグを組んだ記念すべき作品であります。

既に健さんは64年から「日本侠客伝」、65年からは「網走番外地」「昭和残侠伝」という不動の人気シリーズを成功させていた売れっ子俳優。

一方の降旗は「昭和残侠伝」で助監督をした後、66年に「非行少女ヨーコ」で監督デビューを果たしたばかりのペーペー。

この「健さん=任侠」のスタイルを踏襲しつつも、現代劇で彼の新境地を開拓する使命を与えられた降旗は、自身のインテリジェンスな作風で以て見事にその期待に応えてみせました。
そして東映十八番の任侠劇でありながらもあくまで従来の様式美を強調せず、むしろ堂々とフレンチ・ノワールに寄せにいったアプローチには東大卒・降旗の欧州被れが伺えます。

そこには強力な権限を固持した任侠プロデューサー俊藤浩滋の息がまだ彼にかかっておらず、植木照男の企画の下で制作されたこと。
前作「非行少女ヨーコ」でも見せた和製ヌーヴェルヴァーグっぽい演出や八木正生の洗練されたサントラや"サントロペ"など、当時フランス映画に強い影響を受けていたことなどが挙げられるでしょう。

また本作は長崎ロケということで様々な名所を上手く背景に置いており、
一方で被爆都市を舞台に原爆症を患うヤクザが主人公であることにもドラマに奥行きを持たせます。

健さんとは「飢餓海峡」ぶりの共演となる三國連太郎ですが、悪徳弁護士をいやらしく演じる彼は本当に演技が上手い。
しかし、それ以上に健さんの男気は我々の心を打ちのめします。
ラストも東映らしからぬ純然たる余韻に頬が濡れる。

本作が日本のプログラムピクチャーの域を出る非凡な異色作となり得たのは、ギャバン作品やジョゼ・ジョヴァンニ、メルヴィルなど仏製フィルムノワールへの敬意の賜物であると云えるでしょう。

残念ながら二人の第2弾作品「獄中の顔役」は俊藤のプロデュースもあってか凡庸な量産品に成り下がってしまっていますが、
健さんと降旗の絆は本作で運命的に通じ合い、以後生涯きっての名コンビとなったのでありました。
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