回想シーンでご飯3杯いける

THE WAVE ウェイヴの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

THE WAVE ウェイヴ(2008年製作の映画)
3.8
独裁制を学ぶ期間限定の実技授業をきっかけに、アメリカで実際に起きた事件を題材にした作品。それをアメリカ国内ではなく、かつてナチスによる独裁制が敷かれていたドイツで映画化されたのが興味深い。

独裁制というキーワードやパケ写のイメージから、かなり硬派な作風を予想していたのに対して、冒頭はかなりカジュアルな雰囲気。主人公の教師ベンガーは初日はラモーンズのTシャツ、翌日はザ・クラッシュのTシャツを着て、カーステでパンクを聞きながら登校する。つまり、独裁制とは正反対の、無政府主義や自由主義を尊重する人物として描かれている。生徒の高校生達も独裁に対する興味はさほどなく、「面白そうだから」という軽い気持ちでこの限定授業を選択している。

アメリカの「フリーダム・ライターズ」や、フランスの「奇跡の教室」もそうであったが、特定の政治思想に傾倒していない少年少女は、純粋であるが故に、教師の言葉や授業での体験から大きな影響を受ける。本作が鋭いのは、そんな無防備な彼らこそ、独裁性へ傾倒する潜在的な要因を内包しているという危うさを描いている点だ。本来は服装自由の学校なのに敢えて白いシャツを制服に導入。指導者への敬語、発言時の挙手と起立等、ルールを厳格化する事で、全体主義の力強さに傾倒していく様子が実にリアルだ。そして、このクラスで義務化されているルールの殆どが、日本の普通の学校で何の疑問もなく導入されている事に気付き、何だか恐ろしくなってしまうのである。