Automne

ソナチネのAutomneのレビュー・感想・評価

ソナチネ(1993年製作の映画)
5.0
#300
記念すべき300本目は「ソナチネ」にすると決めていた。
静謐と騒乱。相反する要素を併せ持つ本作に度肝を抜かれた。想像を超えてきた。
極道のルールと生き方、緊張感の妙。ブルーの淡く切ない使い方、構図の美しさ、物語の重厚さ。それらのどれをとっても手放しで誉めてしまう。
北野武がビートたけしとしてお笑いをやっていたこともまた彼自身ひいては作品にとって良い効果をもたらしている。紙相撲やロケット花火、ロシアンルーレットなど「遊戯」のセンスが良い。普段の彼はそうやって遊んでいるのかな、なんて思いを馳せる。笑わせる気のない笑いというか。笑いもそもそも矛盾やすれ違い、ギャップによって生まれるからこそ物語であり文学であり映画である。こんな風に噛み合わせることのできた人間を私はこれまでの人生で知らなかった。発想の面白さも根本にはあるが、これほどに混沌としたものを内部に持っている人間が独特のバランス感覚でそれを操縦しここまでの作品に仕上げたこと、それもまた監督としての度量の広さや強さの一因であるように思う。
引き金を引く、強さと弱さ。それに対して美しい少女があっけらかんと疑問を口にする。男は怖いのだ、それを見透かされるのが。
最近はヤクザよりも半グレがぶいぶい言わせてるイメージがあるので、こういう人間たちが日本に存在していた時代というものにある種のノスタルジィを感じる。最近のB級映画アウトローものでは「THEヤクザ」みたいな偏見の塊のようなダサい人間が出てくるが、それは少年漫画でいうところの「非実在青少年」みたいになってる。そういう偽物にはリアリティがない。とりあえず柄シャツ着せるとか、とりあえず爆破するとか、とりあえず銃撃するとか、そんなんじゃない。対照的に本作にはそういった隅々にも美学があった。
ノーランの「ダークナイト」の爆破はすごいけれども、実際に大型セットを爆破したという事前情報(M:Iでトムクルーズが飛行機につかまってすげえみたいな)があることによって、観るときに良さを感じさせる。要は私の思う良い作品、良い映画はそういうことではないのです。「ソナチネ」の爆破は小規模ではあるが、あそこまで凄惨さを伝えるものが他にあるだろうか?今の時代に見たら自爆テロすら想起するであろうし、強い感情を動かすものは時空をこえる。
筆舌に尽くし難い大傑作。見事に喰らいました。オールタイムベスト🌟
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