真田ピロシキ

Shall we ダンス?の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

Shall we ダンス?(1996年製作の映画)
4.3
TVで何度か見て結構楽しかったこの映画。いつの間にやら主人公達と近い歳になっていました。そうなると感じることも違ってきててより味わい深い。

私事で2ヶ月前に姿勢と精神の安定のためにヨガを始めたのですがそれを赤の他人がどう受け止めるかは別の話。自意識過剰でも中年男性がほぼ女性の集まりに混ざっていいものかという悩みはあって、1995年よりはマシになっててもジェンダーギャップが現存し下衆の極みな事を平然と宣って憚らない野郎どもを見ると警戒されたとしても仕方がないだろうと思いながら恐る恐る体験申し込みをしたものです。あ、下衆男に「スケべ根性?w」とか聞かれたら死ねとしか思わないです。そういう経緯があるので役所広司演じる主人公の葛藤が分かる。この場合は不純な動機が多少あって食事に誘ってしまったのはドラマの都合は分かるものの見た目が清潔な役所広司でなければリカバリーの効かない不自然な失態。これはどうかなーと。

ですが図星を突かれながらも止めたら自分の下劣さを認めてしまうじゃないかと意地を入れて継続し、その中で心底楽しみを見出せるようになる。ここに共感するところがあります。何かにハマるのってそのくらいからで良いと思うんですよね。何もプロとして食っていくためにやるのではないのだから。一銭にもならないことを真剣にやるアマチュア精神が結果を出す事に囚われて自分を見失っていた草刈民代演じる先生の心に明かりを灯す。プロとアマのWIN-WIN関係を見て取れる。

役所広司は作中でもモテそうと言われるナイスミドルですが他の人達はそうではなく皆風采の上がらないおじさんおばさん。竹中直人は真剣すぎてキモい。徳井優はやたら口を出したがる小男。田口浩正は太ってて脂ぎってると渡辺えりに敬遠され、彼らも彼女を奇異の目で見ている。そうした同好者間ですら離れられない見た目のジャッジメント。映画から4半世紀が経過しようとしている今でも抱えている問題がこの軽妙なコメディには潜んでおり、それを乗り越えてのダンスシーンには高揚感でジンワリ。ただの中年男女なのに!

母の熱中している事を好意的に捉えていた渡辺えりの娘が「日本人が社交ダンスってのもねー」と思わず口にしてしまったのも本作における滑稽な真剣さを尊いものにしている。これがリチャード・ギアの出てたリメイクでは日本人の身からすると特に違和感なく印象に残りにくかった。狭量さを増す浮世で顧みられるべき題材。今だとeスポーツをこの切り口で映画化すれば面白いかと思います。ファン層に蔓延しているルッキズムや結果を優先されるプロプレイヤー、世間からの見られ方など本作と相通じるものはあると思うのですがどうでしょうか日本映画関係者の皆様。eスポーツ自体に社交ダンスと違ってまだエレガントさを欠いているのが壁か。