みかんぼうや

ジャズ大名のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

ジャズ大名(1986年製作の映画)
3.4
【完全にハチャメチャコメディに振り切った作品と思いきや、最後にしっかり政治・戦争風刺を入れる、乱痴気騒ぎ爆発の喜八作品】

岡本喜八監督四作目。原作は筒井康隆。

幕末の動乱期、とある弱小藩に外国から流れ着いた3人は、米国で奴隷の身から逃れ、自由の身となりジャズを楽しむ黒人3人だった。その3人が持つ知らない楽器(トロンボーンやクラリネット)の音色に魅了されジャズに傾倒していく藩主(古谷一行)は、藩政治や幕末の動乱などもはやどうでもよくなり楽器演奏を楽しめれば良かったのだった・・・

最初の20分は黒人たちの会話が日本の農民言葉で吹き替えられており、そのノリからも本作は今まで観た喜八作品以上に完全にコメディに振り切ったお遊び映画なのだな、と思った。実際、残り20分までは何のメッセージ性も感じない時代劇コントのような内容で、ただ軽く流し見でもいいくらい。正直これまでの喜八作品に比べると緊張感や興奮もなく短尺の割に冗長ささえ感じたのも事実。

しかし、ラスト20分!ここからは台詞もほぼ無く、藩主含む城下の人々と黒人3人が城の地下室でひたすらにジャズを演奏し乱痴気騒ぎする画が延々と続く。だが、そこにところどころ映しこまれる、地上で同時に展開されている幕府軍と倒幕軍の侍たちの真剣な斬り合い。

最初はジャズを演奏しながら乱痴気騒ぎする藩主や侍たちが滑稽に見えたのに、むしろ、その裏で国の行く末を憂い真剣に斬り合いして命を落としていく侍たちが滑稽に見え始める不思議。この感覚、「アンダーグラウンド」や「まぼろしの市街戦」にちょっと似ている・・・

そうか!この作品、ただのコメディと見せかけて、しっかり喜八流の反戦作品なのだ!

そして、いつしかその地下で行われるジャズの乱痴気騒ぎに合流する「ええじゃないか」運動の領民たち。ますます狂喜乱舞の宴が広がっていく。

なるほど、「ええじゃないか」も黒人が発明したジャズもある意味同じなのだ。権力に虐げられてきた弱き人々たちのうっぷんが音楽や踊りを通して発散、いや拡散されていく。「ええじゃないか」とジャズの融合。まさにEast meets West。

ということで、ラスト20分までは正直飽きかけていて点数低めで考えていましたが、ラストで点数グッと上げました。でもエンジンかかるのが遅かったので、喜八他作よりは低めですが。とはいえ、喜八監督、やはりあなたの作品は一筋縄では終わりませんな!
みかんぼうや

みかんぼうや