本作は映画の中で映画監督役が新作映画を作るというメタ映画です。
彼(監督役)は自分の新しい映画に相応しい老人役のオーディションをしますが、その時に現れたラベンダー売りの老人に関心をそそられ、跡をつけることに…
そこから劇中劇にスイッチします。
どこで現実と切り替わるか分かりにくく、1度目の鑑賞では、劇中劇と気付くのはもっと後半でした。
そのラベンダー売りの老人が劇中劇では監督の父親役として話が展開していきます。父親は旧ソ連に亡命、32年ぶりに故国ギリシャに戻って来たという設定です。
タイトルにあるシテール島とは実際に存在し、恋人たちが目指す恋のメッカとして描かれています。また、『シテール島への巡礼』というアントワーヌ・ワトー作の絵画もルーヴル美術館に所蔵されているそうです。
本作の劇中では「エゴイメ」(私だよ)という言葉が何度となく出てきます。無国籍である父親の失われたアイデンティティを伝えたいという思いも感じます。
そして素晴らしい映像…青白く靄のかかったような穏やかなギリシャの山の景色…幻想の中に現実がくっきりと浮かび上がるように、そこへ群衆が現れます。
一番好きなシーンは、静寂な夜、雨の中…主人公がピアノを弾くかの如く指を動かします…するとピアノの音色が…感動でゾクッとします…街の中という現実を感じさせる背景の中、とても幻想的な演出にうっとりです。
母親は国を捨てた父親のせいで大変な苦労をし、入獄も免れませんでした。しかし彼女は終始「何があろうとも夫といたい」と願い、その想いがラストに繋がります。
絵画のようなラストシーン…
とにかく映像を楽しんで………。