半兵衛

家光と彦左と一心太助の半兵衛のレビュー・感想・評価

家光と彦左と一心太助(1961年製作の映画)
4.0
身分の違う二人がお互いに成り代わって行動する…『取りかえばや物語』など古代からのよくあるパターンのストーリーが澤島忠監督のスピーディーな語り口と黒澤明監督の参謀役的存在でもある小国英雄の娯楽のポイントをしっかり押さえた脚本、映画に愛された俳優中村錦之助の名演によって最上級の喜劇映画に変貌する奇跡に感動。命の危険にさらされた将軍候補家光の影武者になった一心太助と太助に成り変わった家光の普段のライフスタイルからかけ離れた生活とのギャップジェネレーションからくるギャグはいずれも爆笑ものだし(太助の袴踏みつけからの「善きにはからえ」のコンボギャグはもはや鉄板)、それをサポートするのが進藤英太郎と田中春男という布陣なのも完璧で前作まで彦左衛門を演じていた月形龍之介でもコメディ演技は出来ないわけではないけれどここまで笑いに振り切っているとやはり巧みな芝居が出来る進藤による彦左衛門が適役。あまりコメディのイメージが無い平幹二朗の柳生十兵衛による無言なのにちょっとした表情の変化によるニュアンスで自分が家にいないときに何が起こったのかを太助に説明するギャグも素晴らしい。

でもそんな笑いだけではなく兄弟という関係性の難しさをドラマのあちこちに配置して、それがやがて太助と家光二人のドラマに結び付いて家光と弟の忠長が互いの絆を再確認する終盤の展開に着地して観客の目を自然と綻ばせるストーリーまで用意する職人技が凄すぎる。見終わったあとは極上の娯楽映画を堪能したという満足感に浸った。

普通の映画だったら一人が走ればいいシーンを10人以上疾走させて映画にダイナミックなパワーを漲らせる澤島演出も冴えており、香港映画に負けない勢いとエネルギーが画面から感じられて圧倒された。特に何百人以上ものエキストラが集まった正月シーンと同じくらいの人数からとてつもなく大きいセットに集う江戸城の正月イベントはもはや再現不可能な映像遺産。終盤の敵も味方も走りまくるチャンバラの勢いも凄い。

そんな疾風怒濤な語り口のドラマのなかに雪に佇むヒロイン北沢典子や家光のため死を決意する太助など侘しさや静けさを感じさせるショットを挟み込むセンスも嫌いじゃないです。
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