いの

かくも長き不在のいののレビュー・感想・評価

かくも長き不在(1960年製作の映画)
4.1
第二次世界大戦後(そしてアルジェリア戦争中でもある)のフランスで。


テレーズの夫は、強制連行されたあと行方不明となっている。通りを歩いていた男~その男は記憶喪失らしい~を、16年間不在だった自分の夫だとテレーズは確信する。でも、夫側の親戚はこの男をみても、違う人だと言う。背丈も風貌も違うじゃないか。


この男は、テレーズの夫なのか否か。この男は本当に記憶喪失なのか否か。


テレーズが、夫と思われる男の後ろを歩く様子を遠くから撮っておさめるショットなども印象的。人は信じたいものを信じ、信じたい人を信じる。妻テレーズは、ひとめ見たときから夫だと確信し、その男の前では乙女のようになってしまう。前のめりになってしまう。に対して男は、記憶を取り戻したいというよりは、もう思い出せなくていい、思い出さない方がいいと直感としてそう思っているのかもしれない。戦時中にされたことを思い出してしまったら彼は崩壊してしまうのかもしれない。後頭部の傷、大声で名前を叫ばれたとき硬直したかのように挙げた両の手。戦争はかくも長く人を苦しめるのだということを、瞬時に観ている者にわからせる画であり、その男が誰なのかとか そういった謎解きなど一瞬で凍らせてしまうような力のこもった瞬間だった。だから心に留まり続けている。
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