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八月十五夜の茶屋のkaomatsuのレビュー・感想・評価

八月十五夜の茶屋(1956年製作の映画)
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2015年の冬、早稲田大学内にある演劇博物館、通称“エンパク”へ、「映画女優 京マチ子展」を見に行った。敬愛する京マチ子さんがエンパクに寄贈したという、受賞トロフィーや撮影時のプライベート写真、紫綬褒章、谷崎潤一郎から贈られた一筆画譜、そして何と言っても、『雨月物語』や『赤線地帯』『あに・いもうと』『穴』など、ご本人が使用した映画の台本がショーケースの中に展示されていて、もうウハウハの大興奮。京さんが実際にこれらのシナリオを読んで、歴史的な名演技や名台詞の数々を生み出したのだと思うと、ああ、今日のこの日まで生きててよかったと、感激で身震いした。その展示室の中に一台のテレビモニターがあり、消音状態で再生されていたのが、この『八月十五夜の茶屋』。VHS廃盤、DVD未発売、リバイバル上映もなしで、永遠に観られないのかなと諦めていた矢先、完全な鑑賞には程遠いが、辛うじてその一部を観ることができた。

戦後間もない、沖縄のとある村が舞台。アメリカの統治下の沖縄に派遣されてきた大尉と、現地の日本人通訳、村民からのプレゼントとして差し出された芸妓さんらをメインに、米国人と沖縄村民との交流を描いたというこのコメディー映画、大尉役が『ギルダ』のグレン・フォードというのもすごいが、通訳の日本人役がなんとマーロン・ブランド。一体なぜ、そしてどのように、日本人を演じているのだろうか!? この映画への興味は尽きない。

そして、この芸妓さんを演じるのが京マチ子さんだ。たまたま展示会のテレビモニターで、この映画の中で日本舞踊を披露するシークエンスに出食わし、その演舞のあまりの流麗さに驚愕した。演舞の節目節目で一瞬のうちに衣装が変わる、いわゆる「引き抜き」もあり、カラフルな着物姿を次々と披露しながら、手足の指先にまで細かく神経を行き届かせながら、2回くらいの最小限のカット割りで魅せる、ごまかしの効かないシチュエーションにおける完璧な舞いの美しさとカッコよさに、釘付けになること、暫し。

幽霊、ヴァンプ、すれっからし、夜の女王…一見、派手で体当たりな役どころが多かった京マチ子さんの演技が、大胆さと同時に繊細で上品な色気を纏っていたのは、針の穴に糸を通すような、こうした緻密な職人芸あってこそ。この日舞シーンだけで、文句なしの5点満点。恐らく今後も観るのは困難だろうと、勇み足でアップしてしまったが、いつかきちんと全編を鑑賞し、あらためてレビューが書ける機会を待ちたい。京マチ子さんの末永い健康とご長寿を祈りながら…。
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