もとまち

魚影の群れのもとまちのレビュー・感想・評価

魚影の群れ(1983年製作の映画)
3.5
「男は働きに家を出て、女はただその帰りを待つ」的な昭和の価値観を全面に押し出した人間ドラマは流石に古臭く、あまり面白味は無い。そもそも相米慎二という作家は、ドラマを上手に描くことよりも役者の生の動きをどう捉えるかに注力する人だと思う。本作においては、冒頭の妙な長回しからいきなりその作家性を見せつけてくる。浜辺の上で動き回るふたりを縦横無尽に追い掛けるカメラ。普通にカットを割ればいい所を、意地でもワンカットでやってやるぞ!という謎の気概が感じられるのである。脚本自体は結構真面目な作りだと思うのだが、それでも所々に変なシーンが出てくる。土砂降りの中繰り広げられる緒形拳と十朱幸代の追いかけっこ、突然花火をぶっ放してくる矢崎滋。カメラはアップしたりダウンしたりパンしたりと目まぐるしく動き、役者をひたすら捉え続ける。見せ場のマグロ漁シーンでは、荒々しい波のうねりを受けながらも緒形拳がマグロを捕獲する様を生々しく撮っており、ドキュメンタリーのような迫力をフィルムに焼きつけていた。ただ、普通の会話シーンすらもロングショット長回しをダラダラやっているだけなので、そこはメリハリが無く非常に退屈。ヒロインを演じる夏目雅子が素晴らしく、作中で最も相米らしさを感じる存在だった。朗らかに歌いながら自転車で坂道を駆け下りるシーンや、ラストの海に向かっての凄まじい慟哭など、パッションに満ち満ちためちゃくちゃ生命感の溢れる芝居を見せてくれている。
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