リコ

ストレンジャーズ・キスのリコのレビュー・感想・評価

ストレンジャーズ・キス(1983年製作の映画)
2.5
【メイキングof「非情の罠」、あるいはJニコルソンのお気に入り】

1955年のハリウッド。
映画監督スタンリーは、プロデューサーのファリスと共に、次回作のメロドラマ映画の制作費を調達するため、地元やくざの親分シルバを尋ねる。彼が出した条件は、愛人の女優キャロルを起用すること。
その条件をのんだ監督とプロデューサーは、限られた予算とセットで撮影を開始する。ところが、キャロルが相手役の男優と好意を抱きあうようになり、映画内映画をなぞるようなカオスな状況となっていく…。

映画内映画の主人公はボクサー、彼が窓越しに一目惚れする女、横恋慕するギャングの親分…と、どうやらこれはキューブリック監督の1955年作品「非情の罠」をモデルにしているらしい。
監督は終始「スタンリー」と呼ばれているし、ファリス、シルバなどは実際の映画のスタッフ人名をもじっているそうだ。
実際の「非情の罠」は低予算で制作されたが、こちらも負けずおとらず(?)低予算で作られたのか、美術デザインなどにさすがに安っぽさがあり、とても50年代の雰囲気があるとは言えない。
さらに【映画のメイキング映画】にはつきものの、撮影の紆余曲折やスタッフの悲喜こもごもなど、当然あってほしい要素があまりないので、「やっと完成した!ばんざーい!やっぱり映画って良いもんですねー」的カタルシスが感じられないのは、結構な致命傷なんではないだろうか。
そして、こう言っちゃ身も蓋もないが、ヒロインに全く魅力がない!演じるVテナントは、Sマーティンの奥さんだった人で、彼とは「L.A.ストーリー」で相手役をつとめている。その映画は前に見たことあったけど、まあ彼女がえらく老けた、表情に乏しいヒロインだった印象なので、全然おもしろくなかった覚えがある。それはこの映画でも然り。
相手役の男優と、ギャングの親分を翻弄するほどのファムファタルの魅力が全く感じられず、ずっとぎこちなさそうだった。
映画全体としても、役者の適性としても、「非情の罠」に完敗である。

川本三郎の著作「ネヴァーランドで映画を」に、Jニコルソンへのインタビューが所収されていたが、そこの問答で知った本作。
J「いまいちばん力を入れているのはイギリスの新人監督マイケル・チャップマン(原文ママ)のことなんだ。
彼が低予算で作った『見知らぬ人間のキス』という映画は素晴らしい。いま私の仕事はスタジオのボスたちを説得して彼に大きな映画を作ってもらうことなんだ」
チャップマン監督、このあとニコルソンの後光で大作を撮れたのかしら。
まあそこまで調べるほど興味は引かれなかったのだけど。
リコ

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