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フレッシュのninjiroのレビュー・感想・評価

フレッシュ(1994年製作の映画)
3.8
「フレッシュ」、それは12歳のマイケルに付けられたあだ名。
若造、ちびっ子、なんとでも。
フレッシュは学校への道すがらドラッグを仕入れ、それを帰り道に売り捌く。
抜け目なく肝の座った彼はディーラーとして彼を使う組織からも信頼され、一目置かれる存在。
彼はどんな時も平静にして、決して感情を、特に負の感情を相手に読ませない。
眼はじっと相手を見つめ、どんな形相の恫喝にも、どんな悲惨な修羅場でも、ほんの小さな仕草一つで次の瞬間命が奪われるような時でも、決して見つめ合うその眼から二つの眼を逸らさない。

監督はボアズ・イェーキン。後に「タイタンズを忘れない」を監督し広く知られることとなる。元々脚本畑の人で本作が監督デビュー作となったが、その脚本家らしい緻密な構成には唸らされる。近作「グランド・イリュージョン」シリーズにも原案としてその名を連ねているのも納得である。
この映画にはブラックカルチャーを描いた映画にありがちな演出として飾り立てるようなリズムは存在しない。
犯罪を描いた映画にありがちなカットの積み重ねにより無闇に格好よく見せる派手な銃撃戦がある訳ではない。
ただ淡々と、カメラはフレッシュの眼のようにじっとそこで起こることを見つめるだけ。
しかし、その冷徹な画の中で繰り広げられる緻密な脚本が生み出すヒリヒリとしたドラマは、誰の眼をも釘付けにするはずだ。

文字通り、命を賭けたゲーム。
それはゲーム脳なんてアホみたいな言葉で片付けられるようなものとは真逆の、現実を生きる為の実践。
身勝手な大人、腐った現実に対する防御であり、彼に最後に残された復讐の手段。

子供たちは自ら進んで手を汚す。
選択肢の少ない自らの運命を、大人よりも遥かに冷静に見抜いているからだ。
綺麗事からは遠く離れて、しかし見廻してもどこに正義がある訳じゃなし。

ラストシーンでは、観る人によって一様ではない感情が渦巻くだろう。

ちなみに私の場合は、見事に号泣した。
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