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きみの鳥はうたえるのninjiroのレビュー・感想・評価

きみの鳥はうたえる(2018年製作の映画)
3.8
くだらねえなと思うことを客の一人も居ない舞台に見立てて恐れずに飛び込んでやり過ごす、星が廻る真夜中。そうだよまだ真夜中だろと思ったらそれはもう夜明け近く、誰に見せる為でもなく損したような気分になった振りをして、目下これがきっと低気圧のど真ん中、何にも持たずに手ぶらで出かけた蒸し器の中に突如見つけた様なここでしかない道路の上にそっと折り花を置いたら、すぅっと詰まっていた筈の鼻の奥の深くにまで透明な空気が通ったような気がした。ヌルッと心に入ってくる夏の魔物だなんて馬鹿馬鹿しい、こんなぬるい風の中で瞬間まだ堪らなく求める気持ち、どんだけ俺は欲しいんだよ。

囀るような街の音、イヤフォン越しにだって聴こえる、喉の動く音、耳を直に当てたようなお腹の中身の動く音、本当の声の響きよりも柔らかくなだらかに、不真面目なこんな想いさえも仮想キーボードを通したらその耳に向けて解凍されてるだろうと思ったけど、もしかしたらちょっと冷静に聞こえたのかもしれないなんて追加で短く言葉を送る、それはさっきより僅かに熱っぽく、何を自分で調整してるんだろうと思いながら、ぬるくなったハイボールの僅かな残りにタバコの灰を落として、足りなくなった欲望を埋めてみるような真似をして、さっきから俺たち何でなんかの真似ばっかしてるんだよなんて笑えばあんなに喘いでいた一瞬も消えるかもよ。

ビート板に掴まって延々とバタ足をし続ける、この両手を離して仕舞えば自由に、いっそ空も飛べるかも知れないけど、現実音として聴こえない五十音の組み合わせがどんなに厚く漢字という化粧を纏っても、バクバクと鳴る鼓動とその眩しさは覆い切れていない。誰かの真似をしたそうで、結局誰の真似も出来ないあなた、夜に潜って苦しそうに、何をしてるって薄く眼を開けてただ漠然と消えないように。一行でも吐息でいいから伝えて、寝言でいいから教えて、夜中じゅう壊して回ってもこの夜明けには。終わらないでと思った。最初から何も起こらなかったならと何度思ったとしても。どろっとした夏、薄曇りの空。
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