せんきち

女工哀歌(エレジー)のせんきちのレビュー・感想・評価

女工哀歌(エレジー)(2005年製作の映画)
3.5
中国のジーンズ製造工場に出稼ぎに来る少女たちの悲惨な労働環境を描いたドキュメンタリー。面白い。

映画秘宝で言うところの蟹工船映画(『ボーダータウン』もそう)になる。時給0.5元(7円!)、深夜2時までの残業は当たり前、納期前では完徹も!休みはほとんどなく給料の遅配も!労働者のほとんどは10代の少女(14歳の少女も!)。社長に言わせると女性が多いのは「文句も言わず従順に働くから」だそうな。中国の労働基準局に言わせるとこの工場は全体ではマシな方なんだと。映画は主人公のジャスミンが工場の宿舎に入るところから始まるのだが、健康に顔がパンパンだった少女が映画の後半(約半年経過)では顔色が赤紫色になってパンパンになっている。明らかに過労によるむくみなのだ。休憩時間のわずかな合間にジーンズの山に突っ伏して寝ている彼女の姿に涙する。

この映画のエライ所は労働者側のアジテーション映画にとどまらず経営者側の悲惨も描いているのだ。社長は発注元のインド人に仕入れ価格を買い叩かれているのだ。その発注元のメーカーは他社との価格競争に追われ巨大量販店(ウォルマートとか)に更に買い叩かれていく。何故なら消費者の多くは貧しいので安い商品しか買わないからだ。何という負の循環!


ここまで書いてなんだが、労働環境は確かに酷いが悲壮感は少ない。少ない休日の彼女たちの休息や微笑ましい日常がインサートされているからだろう。ラストで少女達は言う。


「ジーンズのポケットに手紙を書いて出さない?梱包前に入れちゃえば絶対バレないよ!」

「えーバレちゃうよ!何書くの?」

「(多分アメリカ人用の巨漢用ジーンズを指して)あんな大きいジーンズを本当にはけるの?私達のジーンズをはいてる人ってどんな人なんだろう?て書くの」

もうね、泣いてしまいますわ。社会を呪っても良いほど働いているのに何故こんな事を言えるんだろうって。

同様の蟹工船映画としては『ダーウィンの悪夢』もあるが悲惨さ地獄絵図は圧倒的にダーウィン。監督のアプローチの違いもあるんでしょうがアフリカと中国の近代化の差もあるのかも。中国の近代化の方が大きいって意味でね。勿論、このジーンズ工場の労働環境を擁護するつもりは更々無いけれど。
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