明石です

ゾンゲリアの明石ですのレビュー・感想・評価

ゾンゲリア(1981年製作の映画)
4.0
「人間は死ぬと病気にかからない。年も取らん。彼らは生きてる人間より美しいのだ」

海辺の小さな港町で、観光客がリンチに遭い、生きたまま燃かれるという凄惨な事件が勃発。正義感溢れる地元の保安官が事件の解明に向かうと、まさかまさかの真相が明らかになるというお話。『エイリアン』のダン・オバノンが脚本を担当した、邦題からは想像もつかないミステリーテイスト満載の斬新なゾンビ映画。

『ゾンゲリア』というお茶目なタイトルは、もちろんルチオ・フルチの『サンゲリア』のヒットにあやかって付けられたものですが、ウジやゴカイにまみれたゾンビに襲われ、目ん玉を刃物で突き刺されるという、ゴア描写の目白押しが魅力だったあの映画とは180度違う、露骨な残虐さのない抑制の効いた恐怖演出で魅せる本作ゾンゲリア、、タイトルで損してるかどうかはさておき、誤解を与えているのは間違いないと思う。

浜辺に打ち上げられた小船や、時代に取り残されたような燻んだセピア色の町並みを哀しげなピアノの旋律に乗せてノスタルジックに映すことで、そのあと起こることの不気味さをより際立たせる粋なオープニングに序盤さから引き込まれる(入れるディスク間違えた?と思ったのは内緒)。グロ主体の、というかグロ自体が芸術だった『サンゲリア』とは一線を画す、マジメな芸術作品であることを匂わせる入り方ですね。

そしてオープニング後は、その寂れた町を訪れた写真家が、リンチの末に生きたまま焼かれ、かろうじて生き延びたかと思えば、目ん玉に注射針を突き刺され死亡という、圧倒的人怖な猟奇事件を見せられ(これが意外にもグロさを感じない)、ゾンビの影などどこにもなく、、やっぱり入れるディスク間違えた?と思っていたら、、なんと!本作のゾンビは生きた人間と見分けがつかないほど綺麗な見た目をしていて、実は序盤からずっと登場していた!という予想外の展開に。

切手みたいに小さな町(作中の表現)の住民がグルで襲いかかってくるという展開は『ウィッカーマン』や『2000人の狂人』のような、どこにも逃げ場のない閉鎖的な空間ならではの怖さがあるし、生きた人間と同じ見た目をしたゾンビの中から本物の生者を見分けようと奮闘するプロットはまさしくエイリアンな感じ。そしてエンバーミング技術で生者と区別のつかない死体を作り上げ、蘇らせるというアイデアはなかなかにアートな気がしないでもない笑。このなんとも詩的で古風な怪奇ムードは、ラヴクラフトの幻想小説から影響を受けたダン・オバノンならではの演出なのかな。

邦題のパクリ元である『サンゲリア』との共通点は、ブードゥ教との関連でゾンビ化の説明をしてるところくらいかも。本作はブードゥの黒魔術由来のオカルトゾンビに、マッドサイエンティストのマッドな所業を絡めてリアリティを与えてる感じ。まあその意味ではたしかにゾンビかもしれない、、ゾンビって何も生きた人間の肉を貪る悪臭ふんぷんたる死者のことだけじゃないから。「彼らは死んでいるけど、見事に生きている人間の真似ができるのよ(by主人公の奥さん)」というのがこの映画におけるゾンビの正体らしい。

ジョージAロメロの功績を過大評価するならこれはゾンビ映画じゃないけど、ロメロ以前のブードゥ由来の生ける屍というアンティークなゾンビ観に重きを置くなら、これはゾンビ映画ということになりそう。まあいずれにせよ「ゾンゲリア」はいただけないけどね笑。

ビジュアルインパクト絶大の汚物ゾンビ(褒め言葉です)が見どころだった『サンゲリア』に対し、エンバーミング技術によって生きた人間と区別がつかないほど容姿を整えられた綺麗なゾンビの本作。見た目だけをとっても180度違うのに、よりによってあの映画を真似てタイトルを付けられるというのは何とも皮肉なことですね。そんなわけで作品自体は素晴らしいけど、邦題はまぎれもなく映画ファンを騙すための商業的なものだと思う笑。まあかくいう私も騙されて見たわけで、そうじゃなければ見てなかったかもしれないことを思うと(原題通り「死と埋葬」だったら確かに地味だし)、邦題をとやかくいう資格はないけどね。

それにしても、奥さんが不倫をしてたことと殺人を犯したことと、実は死んでたことをダブルパンチならぬトリプルパンチで知らされる旦那さん、、不憫すぎでは?笑。全ての謎が明らかになるシーン(主人公の迫真のアァァー!が見もの)ではつい同情しちゃった。
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