竜平

紅の豚の竜平のレビュー・感想・評価

紅の豚(1992年製作の映画)
4.6
イタリアはアドリア海を舞台に、空賊相手の賞金稼ぎとして気ままに暮らす“豚”の飛行艇乗り「ポルコ・ロッソ」の活躍を描く。

舞台のメインが空と海上で、陽気な空賊も出てきたりして、今作にはなんか勝手に『ラピュタ』の系譜を感じてたりして。今作は言うなれば一人の、いや一匹の飛行艇乗りの浪漫と愛の物語。主人公がどういうわけか「豚」で、周りもそもそも豚であることにはべつに驚いたり不思議に思ったりもしてなくて、なんかここらへんの世界観が改めて見るとシュールでおもしろいんだよなと。元は戦争の英雄であり、一応何やら「魔法」によって豚になってしまったとされてるんだけども、やっぱりそこまで説明してこないあたり宮崎駿節だよなーなんて。てか宮崎駿の「伝えたいとこはそこじゃない」と断言してるような初っ端からの潔い設定よ。で豚なんだけど女性からわりとモテモテなのがまた良き。劇中ずっとサングラスを掛けていて、とある顔を洗うシーンで一瞬だけ瞳が写るんだけどイケメンなんだよね、とまぁそんな話は置いとくとして。途中にある戦場でのエピソードではファンタジーの様相がちょっぴり掛かってきつつ、かつての戦友や美しき「ジーナ」との関係性、更にその話を聞くことになる若き女性設計士「フィオ」など、男女間のなんともシブい恋愛事情というのも見どころだったり。ここまでの宮崎駿作品とは打って変わって“大人”な作風、かと言って堅苦しい感じは見せず、ビジュアルもストーリーもしっかりポップ。でどこにも属さず自分のため、そして女性のために挑んでいく、「これぞ男」な話になってるあたり最高にクール、とにかくかっこいい。前述した「豚なのにモテてる」理由が後半へ進むにつれてわかるってくるはず。

決して真相を明かさず、明確な描写も出さずに終わるラストと、ジーナ役でもある加藤登紀子の歌うエンディング「時には昔の話を」が本当に良き余韻を残す。宮崎駿自身は今作完成からしばらくして「趣味全開の退屈な映画を作ってしまった」みたいなことを当時言ってたらしい。かと思えば「続編を作りたい」と豪語するほどお気に入りでもあるみたいで、なんというかこれまでの作品とは違う部分での「深み」が垣間見れて個人的には好きな、というか歳を取ってから改めて好きになった一本。
竜平

竜平