「未来を選べ」
公開当時のキャッチコピーだった。
渋谷のシネマライズの2階席の最前列で観たのを覚えている。
19歳だった。
熱気があふれていた満席の映画館。
なんだろう、あの興奮は。
一種の麻薬。
イギー・ポップの「Lust For Life」が流れる中、万引き全力疾走のマーク・レントンによって語られた
「Choose life」
の名スピーチを浴びてやられたまま、ラストまでずっと、どうかしてる異世界の若者たちの「陽気で悲惨な青春」に夢中になった。
さらには、ドラッグの恐ろしさはもちろん、悪友との腐れ縁を断つことの難しさも教えてくれた。
「スタンド・バイ・ミー」のジャンキー版。
まず、映像表現に遊び心がありまくるので、ものすごく刺激的。
脱ドラッグ中の幻覚シーン(赤ちゃん…!)ですら、グロテスクながらも楽しんでしまった。
「清潔でエレガントなトイレがいい、純金の蛇口、大理石の便器、黒檀の便座、香水で満ちたタンク、ボーイが絹のペーパーを渡してくれる」
そんな前振りがきっちりと効いていた、あの、めちゃくちゃ汚いトイレのシーンに関しては
「スコットランドで最悪のトイレ」
どころか
「映画史上最悪のトイレ」
でもありながら
「トイレ史上最高の名シーン」
でもあるだろう。
下痢便をしようとしたら落としてしまった座薬ドラッグを探し求めて、マーク・レントンは、汚れたトイレをかいくぐり、海の中を泳いだ。
それは「マクベス」の魔女の台詞にあった
「綺麗は汚い、汚いは綺麗、さあ、飛んでゆこう、霧の中、汚れた空をかいくぐり」
の精神だ。
シェイクスピア、イギリス人だし。
「ビタミンCが違法ならやってた」
は名台詞。
こちらはシェイクスピアではなく、マーク・レントンの言葉。
そう、皮肉の込められたユニークな台詞が、エッジの効いた映像とスタイリッシュなサントラ、それらをまとめ上げた素晴らしい編集との相乗効果により、哲学的に響いたのだ、19歳だった私には。
その後に読んだアーヴィン・ウェルシュの原作小説も相当ぶっ飛んでいて面白かったし、それを脚本へと落とし込んだジョン・ホッジによる脚色もお見事ですとしか言いようがないので、心から尊敬。
退廃的な薄汚れ具合とカラフルさが絶妙にマッチしたプロダクションデザイン、それを活かした照明と撮影。
個性的なキャラクターそれぞれにはまっていて格好良かった衣装、着こなして自由自在に演じていた俳優たち。
チーム「トレインスポッティング」の座組は完璧だった。
つまり、コンダクトを振ったダニー・ボイルは、天才。
ちなみにサントラは、#1と#2の両方を買ってヘビロテした。
パンフレットは、写真の発色がスタイリッシュで、特殊なインクだったのか、癖になる匂いと手触りがしたのを覚えている。
永遠のマスターピース。